街に広がる温泉地の原風景

「湯の曲輪(ゆのがわ)」という言葉をご存知でしょうか? 江戸時代の温泉場は共同浴場を中心として街がつくられていました。

 この共同浴場を「総湯(そうゆ)」といい、総湯を中心とした街並みを北陸特有の呼び方で「湯の曲輪」というのです。山代にはこの日本の温泉文化を今に伝える温泉地の原風景が残されています。

 明治時代の総湯を復元した「古総湯」では、窓のステンドグラスや、壁や床に使われている九谷焼なども当時を忠実に再現しています。壁面は木目の美しさを引き出す吹き漆(木地に透けた生漆を塗っては布で拭き取る作業を繰り返し、木目を生かして仕上げる技法)で深い艶を出している、とても美しいお風呂です。

古総湯

 ここでは体を洗うことはせず、掛け湯をしてから湯船につかるという、入浴方法も当時のまま。源泉掛け流しの熱めのお湯にじっくり浸かると、その日は一日中、体がぽかぽかして寒さ知らずです。

 髪や体を洗いたい人は、近くの「総湯」へ。壁面には加賀の九谷焼作家30人による九谷焼タイルが施され、湯に浸かりながら鑑賞することができるアートなお風呂です。湯上がりには、人気の温泉玉子ソフトクリームをぜひどうぞ。

総湯

 山代温泉開湯から1300年の歴史を見守り続けてきたのが、総湯のすぐ近くにある服部神社です。機織の神である天羽槌雄神(あめのはづちをのかみ)が祀られています。

 狂言師・5世野村万之丞(1959-2004)は、湯の曲輪にある地域の事業やコミュニケーションをサポートするための施設を、天羽槌雄神にちなんで「はづちを楽堂」と命名しました。文化や芸能を楽しみ、集い、交流する「楽堂」に、との思いが込められています。

「はづちを楽堂」

 風情あふれる紅殻格子の建物では地元食材を使った加賀パフェや、地元の工芸作家の作品が買えるお店があるほか、作品展や音楽会、陶芸教室などを開催できるイベントスペースがあり、山代文化の発信地となっています。ぜひ足を運んでいただきたいスポットです。(つづく)

温泉玉子ソフトクリーム