文=酒井政人

2023年1月3日、第99回箱根駅伝、総合優勝を果たし、大八木弘明監督を胴上げして喜ぶ田澤廉(後方中央)ら駒大の選手たち 写真=日刊スポーツ/アフロ

田澤廉、最後の箱根路

 今年の箱根駅伝で最も驚かされたのは駒大のエース田澤廉(4年)かもしれない。12月初旬に新型コロナウイルスに感染。1週間ほどトレーニングができない時期がありながら、2区でキッチリと役目を果たしたからだ。

「熱が出ただけでなく、咳がなかなか止まらない状況だったんです。歩くこともできない時期があったので、本当にやばい状態から2週間の練習で臨みました。こんな状況で自分が2区を走ってもと思ったんですけど、自分がある程度で走れば、鈴木芽吹や山野力を他の区間に置くことができる。チームのことを考えたら、自分が2区で抑える役目をしなきゃいけないなと思っていました」

 田澤にとって3度目となる花の2区。前回は区間歴代4位の1時間6分13秒で区間賞に輝いているが、今回は序盤から走りが重かった。中大・吉居大和(3年)のスピードに対応することなく、自分のペースで刻んだ。権太坂で吉居をかわして先頭に立つも、戸塚の壁を押し切る体力は残っていなかった。

2023年1月2日、第99回箱根駅伝往路2区、力走する田澤廉(駒大) 写真=日刊スポーツ/アフロ

 中継所手前で吉居に逆転を許したが、トップ中大と3秒差で藤色のタスキをつなげる。苦しみながらも花の2区を1時間6分34秒(区間3位)で走破。4区鈴木芽吹(3年)で首位を奪った駒大が悲願の〝駅伝3冠〟に輝くことになる。

 まだ駒大がトップに立つ前、戸塚中継所で田澤は安堵感と悔しさが入り混じった表情で取材に応えた。

「絶対に先頭で渡したかったんですけど、肺へのダメージとか、筋力の衰えがあったんです。状態としては60%ぐらいでしょうか。正直、1時間7分はかかると思っていたので、自分のなかでは限界でしたね。残り3㎞で崩れちゃって、脚が前に出ない状態になっちゃったのは残念だなと思います」

 田澤が日本人学生に負けたのは大学2年時の箱根駅伝以来、実に2年ぶりのことだった。

「コロナを言い訳にして負けたというのは嫌なので、負けは負けだ、と。区間賞を獲れなくて、監督に申し訳ないという気持ちです。『絶対に1番で渡すぞ!』と言われたので、トップで渡したかったですね」

 レース中、大八木弘明監督から「男だろっ!」のゲキが幾度も響いた。

 「今日は男でもちょっと厳しかったかな。それより残り3㎞くらいで、『信じてるからな』と言われたんですよ。レース後には電話で、『ありがとう』とも言われました。監督は自分をここまで育ててくれた大恩師。大学の4年間はもう終わりですけど、監督とはこれからもオリンピックや世界陸上を一緒に目指して、頑張っていきたいと思います」

 一方、大八木監督は絶対エースについて、「田澤は本当に凄いですよ」と高く評価した。そして優勝会見の最後に自らマイクを握り、今季限りで駒大の監督を退くことを明かした。

「箱根駅伝は来年、100回大会を迎えますけど、その前の99回で半ばとして新たな世界に私自身が入っていきたいなと思ったんです」