文=酒井政人

2022年1月2日、第98回箱根駅伝、2区を走る田澤廉(駒大) 写真=松尾/アフロスポーツ/日本スポーツプレス協会

区間新記録が連発した2022年

 シューズの進化もあり、学生駅伝の高速化が止まらない。2022年は箱根、出雲、全日本のすべてで大会新記録が誕生した。個人の走りをクローズアップしても、区間新記録が連発している。箱根は3区間(1、9、10区)、出雲は2区間(2、3区)、全日本は4区間(1、2、6、7区)と記録ラッシュに沸いた。

 登録選手上位10人の10000m平均タイムは駒大が過去最高の28分24秒91で、青学大、中大、創価大も28分30秒を切るという超ハイレベル。今回も「区間新記録!」のアナウンスを聞くことができるだろう。そこで何区の期待値が大きいのか、出走メンバーを想像しながら考察していきたい。

 まず覚えておきたいのが、駅伝は気温や風などの気象条件で走りやタイムが大幅に変わることだ。そこで前回と同じようなコンディションだと仮定して、区間新記録が出る可能性の高いトップ5を紹介する。

 第5位は7区と8区だ。両区間は選手配置が最も読みにくい区間のため、セットで紹介したい。区間記録は7区が明大・阿部弘輝(現・住友電工)の1時間1分40秒、8区が東海大・小松陽平(現・日立物流)の1時間3分49秒。両者ともナイキ厚底シューズで樹立した記録だ。一方、7区の歴代2~4位は薄底シューズでの記録になる。8区は21年に厚底を履いた明大・大保海士(現・西鉄)が区間記録に10秒差と迫っており、両区間は選手層の厚い駒大と青学大の選手が区間記録を塗り替える可能性がありそうだ。

 

駒大のエース田澤廉に期待

 第4位は期待を込めて花の2区を選んだ。前回は田澤廉(駒大4)が区間歴代4位の1時間6分13秒で区間賞。今季の田澤は全日本7区(17.6㎞)で日大のパトリック・ワンブイが保持してした区間記録(50分21秒)を43秒も更新した。ワンブィは箱根2区を1時間6分18秒で走破しており、全日本の勢いでいえば、田澤は1時間5分台が期待できる。

 全日本7区では近藤幸太郎(青学大4)も区間新記録で田澤との差を14秒で食い止めた。青学大と駒大が1区を僅差でつなぐ展開になれば、2強のエースたちが20年に東洋大・相澤晃(現・旭化成)と東京国際大・伊藤達彦(現・Honda)が見せたよう大激戦を再現するだろう。気象条件に恵まれれば相澤が持つ1時間5分57秒の日本人最高記録だけでなく、イェゴン・ヴィンセント(東京国際大4)が保持する1時間5分49秒の区間記録に届くかもしれない。

 第3位は花の2区にタスキを渡す1区だ。前回は吉居大和(中大3)が5.5㎞付近で抜け出すと、10㎞を27分58秒で通過。07年に東海大・佐藤悠基(現・SGホールディングス)が保持していた区間記録を26秒も塗り替える1時間0分40秒を叩きだした。

 ちょっと異次元の記録であるが、吉居が再び1区を走ることになれば区間記録の更新は十分に可能だ。加えて1区には東京五輪3000m障害7位の三浦龍司(順大3)や全日本2区で東京国際大・伊藤達彦が保持していた区間記録を塗り替えた葛西潤(創価大4)の参戦も考えられる。この3人が揃えば、さらにドラマチックな区間になるだろう。

 第2位は山上り5区だ。区間記録は東洋大・宮下隼人(現・コニカミノルタ)が2年時に樹立した1時間10分25秒になる。00~05年の旧コース(函嶺洞門を通行していたため現在より20mほど短い)では、順大・今井正人(現・トヨタ自動車九州)が1時間9分12秒の区間記録を樹立している。上り坂は厚底シューズの恩恵を受けづらいとはいえ、思ったよりタイムが伸びていない。

 前回最上位の吉田響(東海大2)は登録メンバーから外れたが、前回区間歴代6位の1時間10分46秒で走破した若林宏樹(青学大2)、前々回6位と好走した山本唯翔(城西大3)。他にも四釜峻佑(順大4)、伊地知賢造(國學院大3)、阿部陽樹(中大2)ら実力者の参戦も考えられる。今回こそは区間新を期待したい。

 

ヴィンセントが走れば4区は可能性大

 第1位は条件つきになるが、準エース区間の4区になる。区間記録は青学大・吉田祐也(現・GOMインターネット)の1時間0分30秒。前回は嶋津雄大(創価大4)が区間歴代3位の1時間1分08秒、石井一希(順大3)が同4位の1時間1分31秒で走っている。

 ここに2区と3区で区間記録を保持するイェゴン・ヴィンセント(東京国際大4)が参戦する可能性がある。今季は故障の影響で出雲と全日本は欠場したが、調子を上げているという。4区に出走すれば、悠々と60分切りを果たすのではないだろうか。

2022年1月2日、第98回箱根駅伝、2区を走るイェゴン・ヴィンセント(東京国際大) 写真=アフロ

 では他の区間はどうか。3区はヴィンセントが1年時に樹立した59分25秒が区間記録。これは本人が絶好調でなければ更新できないほどの好タイムだ。ただし、日本人最高は前回に丹所健(東京国際大4)がマークした1時間0分55秒。このタイムを上回る日本人選手は出るかもしれない。

 山下りの6区は、厚底シューズの恩恵が大きいこともあり、近年は記録水準が大幅に上がっている。20年には東海大・館澤亨次(現・DeNAアスレティックスエリート)が57分17秒という特大の区間記録を樹立した。今回は強烈な下りのスペシャリストがいないため、区間記録はちょっと遠いかなという印象だ。

 9区と10区は前回、驚異的な区間記録が誕生した。9区は中村唯翔(青学大4)が46秒更新の1時間7分15秒、10区は中倉啓敦(青学大4)が50秒短縮の1時間7分50秒。ともにトップを独走するなかで打ち立てた記録だ。これ以上のタイムを狙うとなると、ハイペースで突っ込まないといけない。終盤区間は、順位が決まりつつあるチームは冒険しない傾向があるので、区間記録の更新は難しいと読む。

 選手たちは正月決戦に向けて、心身ともピークを合わせている。絶好のコンディションで本番を迎えたいところだ。そしてレースを中継するアナウンサーたちの「空前絶後の区間記録達成です!」という絶叫を楽しみにしたい。