文=酒井政人

2022年11月6日、全日本大学駅伝で優勝した駒澤大。8区を走る花尾恭輔 写真=SportsPressJP/アフロ

全日本のようにはならない箱根、チーム内選考も同じ

 11月上旬の全日本大学駅伝は箱根駅伝の前哨戦といわれることがある。今年は駒大が大会記録を4分21秒も更新して、独走Vを果たした。正月の箱根駅伝でも駒大が大本命になるだろう。

 ただし、全日本大学駅伝は8区間106.8㎞で、箱根駅伝は10区間で217.1㎞。加えて〝山〟もある。区間が増えるだけでなく、1区間あたりの距離も長くなるため、選手に求められる能力が微妙に変わってくる。箱根は全日本のようにはならない。それはチーム内選考でも同じだ。

 全日本大学駅伝から正月の箱根駅伝までは約2か月。選手たちにはどんな〝戦い〟が待っているのか。

 まずハーフマラソンやトラックレースで熾烈なレギュラー争いが繰り広げられることになる。

 11月13日の宮古サーモン・ハーフマラソンには青学大勢が出場した。前回3区で区間2位と快走した太田蒼生(2年)が1時間3分05秒で優勝。2年連続アンカーを務めた中倉啓敦(4年)も1時間3分57秒で4位に入るなど、全日本を欠場した箱根Vメンバーが存在感を発揮した。

 同日の世田谷246ハーフマラソンでは青学大、駒大、中大、創価大など多くの大学が出場。青学大・田中悠登(2年)が1時間3分05秒で日本人トップを飾ると、駒大・吉本真啓(2年)が1時間3分31秒で日本人2位。学生駅伝未経験のふたりがメンバー入りを猛アピールしたかたちになった。

 

箱根が舞台の「激坂最速王決定戦」

 11月19日には激坂最速王決定戦がある。同大会は箱根が舞台。登りの部は小田原料金所から箱根大観山口までの13.5㎞で、標高差981mを一気に駆け上がる。今回が5回目の開催だが、「箱根5区」の候補選手たちが参戦することで注目を浴びている。

 駒大は前回5区で区間4位と好走した金子伊吹(3年)、全日本4区区間賞の山川拓馬(1年)がエントリー。前回5区6位の城西大・山本唯翔(3年)、創価大の主力である新家裕太郎(4年)という実力者に加えて、國學院大、東京国際大、立大、専大、国士大なども5区候補の選手たちが出場予定だ。コース記録は青学大時代に「山の神」と呼ばれた神野大地(セルソース)の51分02秒で、神野は今年も招待されている。果たして〝山の神超え〟のクライマーが現れるのか。また新設された下りの部には駒大、國學院大の選手がエントリーしている。

 11月20日には2レースで箱根路を目指す選手たちが激突する。ひとつは3年ぶりの開催となる上尾シティハーフマラソンだ。駒大は円健介(4年)、東山静也(4年)、白鳥哲汰(3年)、安原太陽(3年)ら学生駅伝経験者もエントリー。國學院大は中西唯翔(4年)や1年生の青木瑠都、上原琉翔などが登録している。東洋大・石田洸介(2年)は同日の10000m記録挑戦競技会にもエントリーしており、どちらに参戦するのか。他にも順大、東京国際大、中大、帝京大、法大、早大、城西大、山梨学大、東海大といった箱根駅伝出場チームが出場見込みだ。

 20日の午後からは10000m記録挑戦競技会がある。今回は9年ぶりの国立競技場開催だ。男子は全10組で最終組には創価大・嶋津雄大(4年)、駒大・山野力(4年)、東洋大・児玉悠輔(4年)、東洋大・石田洸介(2年)、駒大・篠原倖太朗(2年)らが登録されている。

 

MARCH対抗戦、八王子ロングディスタンスには各校エースが続々エントリー

 25日にはMARCH対抗戦(明大、青学大、立大、中大、法大)が町田GIONスタジアムで行われる。10000mレース(全5組)で各校上位10人の合計タイムを争い、優勝校には30万円の奨学金が贈られる。記録会をショーアップした大会で、事前に登録すると競技場内限定200人、スタンド限定5000人が無料で観戦できるのだ。昨年に続き2回目の開催で、今回は5校すべてが箱根駅伝に出場するため注目度が増している。

 大会主催者を通じて、青学大・原晋監督は、「箱根駅伝連覇を目指す上で他大に負けられない前哨戦ともなります。4年生エース近藤幸太郎、岸本大紀、さらにはニュースター選手の誕生もあります。昨年以上のパワフルな走りをご期待ください!」と意気込みを語っている。

 MARCH対抗戦の翌日(26日)には同じ町田GIONスタジアムで八王子ロングディスタンスが開催される。10000mには国内の有力選手が多数エントリーした。A組には駒大の絶対エース・田澤廉(4年)と、出雲6区で復活の区間賞を獲得した鈴木芽吹(3年)。B組には前回の箱根1区で衝撃の区間新記録を打ち立てた中大・吉居大和(3年)、全日本3区で涙の区間賞を獲得した東海大・石原翔太郎(3年)が登録されている。

 田澤は今冬、10000mで日本記録を上回るブダペスト世界選手権の参加標準記録(27分10秒00)を目指している。昨年はエントリーしていた八王子ロングディスタンスを回避して、翌週の日体大長距離競技会で日本歴代2位の27分23秒44をマークした。今年はどこで記録を狙うのか。

 12月4日の甲佐10マイルロードレースには順大・三浦龍司(3年)、國學院大・中西大翔(4年)、創価大・嶋津雄大(4年)が招待されている。各校のエース級が一同にそろうことはないが、各地でライバルたちが火花を散らすことになる。

 なお上尾シティハーフ、10000m記録挑戦競技会、MARCH対抗戦、八王子ロングディスタンスはLIVE配信でも見ることができるので、ぜひチェックしてみよう。

 実際のレースだけでなく、多くの大学が10マイルほどの距離での「単独走」を〝学内選考トライアル〟に組み込んでいる。ひとりでも確実に押していける力があるかチェックするためだ。

 他にもポイント練習の消化率や、フィジカル面、メンタル面で問題がないかなど、様々な〝小テスト〟を潜り抜けた者が、12月10日のエントリーメンバー(各チーム最大16人)に入ることになる。

 さらに本番を走れるのは10人のみ。箱根駅伝を目指す者たちにとっては緊張感のある日々が続く。