最大の見せ場「ディオールの夜会」
そこを過ぎると展覧会の最大の見せ場、「ディオールの夜会」が眼前に迫る。35体のドレスが大階段に立体的に立ち並ぶだけでない。プロジェクションマッピングによる映像演出がなされ、音楽の効果もあいまって、壮大で幻想的な空間の広がりに文字通り、身体が震える。
この展示は第11室において別の角度から見られるようになっているが、そこでは鏡の効果によってさらに異次元感が高まって見える。まさに「夜会」のイメージをこの上なく壮麗に抽象化した舞台芸術を見るようだ。
そこから一転、真っ白なモックアップに埋め尽くされたディオールのアトリエへと舞台は変わり、いったん目がリセットされたかと思うと、色のグラデーションの世界「コロラマ」の部屋に移る。ドレス、帽子、バッグ、靴、香水などが色別に壁面を覆い尽くし、虹のようなファッションスペクトラムを形成する。
さらに9つ目の部屋、花々がふんだんに咲き誇る「ミス ディオールの庭」に至ると、鏡を水に模した演出、絵画とのコラボ効果で、色彩と植物の生命力に包まれる白昼夢のような幸福感に満たされる。
と思ったら10番めの部屋には、夜間のきらめきが降り注いでいる。「スターたちとジャドール」の部屋で、グレース・ケリー、リタ・ヘイワ―ス、マレーネ・ディートリヒ、マリリン・モンローなど、星の輝きに負けないスターのオーラの残像で陶酔に導かれる。
12番目の部屋は「レディ・ディオール」が天井まで埋め尽くされた、バッグのトンネルである。メゾンの最初のショーに用いられたナポレオン3世様式の椅子から着想を得た「カナージュ」モチーフのステッチが特徴的なバッグ「レディ・ディオール」は、アートプロジェクトとしても使われており、イ・ブルや名和晃平など現代アートの作家も参加している。
最後の部屋は「ディオールと世界」。世界各地の民族衣装にインスピレーションを得たディオールの作品は、エキゾチックで高貴な洗練を湛え、一体一体が斬新で、各地域への想像を刺激する。
ユニークな13の空間演出のなかでディオールの作品を見る体験は、新しい世界を知る驚きと高揚感を与えてくれるという意味で、異なる土地を旅していく感覚にも近い。
すべての部屋を見た後、もう一度、原点のモノクロームの部屋に「帰って」みた。耐乏を強いられた数年間の戦争が終わった後、女性の美しさを通して新時代の豊かさを表現してみせたムッシュ ディオールのニュールックが核となり、70年間にわたり各時代を彩り、世界各地で文化の交流を促しながらブランドを発展させてきたことがあらためてわかる。
ムッシュウが活躍したのはほんの10年。その後、後を継いだ才能あるデザイナーたちがムッシュウの遺産をそれぞれに解釈し、自身の才能を開花させ、ブランドの可能性を拡大していった。ブランド継承の幸福な成功例でもある。
資本力を最大限に生かし、とてつもないエネルギーが結集された芸術としてのファッションの祝祭展である。