女性美の理想を追求したドレス
さて、美術館を出たときの感動から少し距離を置き、芸術としてのファッションという見方を離れて少し生々しいファッション史の流れのなかでディオールの業績を回顧すると、記憶に甦るのが、「ミス ディオールの庭」でマネキンなしに立っていた構築的なドレスたちである。建築や美術にも造詣の深いムッシュの視点から女性美の理想を追求した完璧なバランスのドレスが、人体なしに立っている。
この「男性視点の理想の女性美」が71歳のシャネルの反抗心に火をつけ、シャネル再デビューのきっかけとなって、自立した女性が動いたときの美しさを追求した彼女の第二次黄金期を導くことになるのだ。
さらに、ディオールであれシャネルであれ、パリ・モードの権威をあっさり無視したロンドンのマリー・クワントは、シャネルの嫌った膝を丸出しにし、権威の圏外からミニスカート革命を起こして世界を席巻することになるのである。影響の連鎖がそれぞれのデザインを生み、それぞれがもたらしたファッションが時代と共鳴して平和裡に社会変革をもたらしてきた。
そんなファッションの力を考えさせる展覧会が続いていることを何よりも歓迎したい。ガブリエル・シャネル展、マリー・クワント展に関する本ウェブサイトでの記事もあわせてご参照いただければ幸いである。