「オープニング曲とエンディング曲から決めました。羽生選手のあの(7月19日の)会見は、今までなら『引退』と言われることが多かったと思うんですけれど、自分は引退ではなくて、プロのアスリートにこれからなるんだという決意がすごく表れていたなって思うんです。アスリートとしてこれから挑戦も戦いも続いていくんだというメッセージを感じたので、オープニング曲は『戦いは終わらない』という曲にしました。阿部真央さんの曲で、羽生選手が平昌オリンピックのシーズンによく聴いているとおっしゃっていた曲です。

 エンディングはMrs. GREEN APPLEさんの『僕のこと』です。『シェアープラクティス』という練習の生配信の中で流されていた曲で、歌詞も、羽生選手が自分自身と重ねている部分もあるのかなと思いました」

 プログラム曲のスタートは今年行われたアイスショー「ファンタジー・オン・アイス」で使用した『Real Face』にしようと決めていた。

「リアルを手に入れる、という歌詞が出てくるんですけど、そのリアルというのは4回転アクセルのことで、4回転アクセルを絶対手に入れるんだ、そういう思いを込めて滑った、というお話をされていました。4回転アクセルという未来に向けた決意から始めて、未来に向かうためには必ず過去が必要なので、そのあとに過去のプログラムを並べました」

 序盤は「初めて」にこだわったという。

「『Let's Go Crazy』は初めて4回転ループを跳んだ曲で、『悲愴』は初めて世界選手権に出場して滑ったプログラムです」

 次に選んだのがU2の『Vertigo』。

「2010年と2011年のエキシビションナンバーですが、2015年のファンタジー・オン・アイスでも滑っています。まだ幼い羽生選手が男性の色気を表現しているそのときの魅力もあるんですけれど、2015年、二十歳になってより魅力が増したプログラムだと思ったので、過去から未来につながっていて進化を披露してくださったナンバーだなと思って選びました。

 その後のサラ・オレインさんの『The Final Time Traveler』は阪神淡路大震災がテーマになったゲームの中の曲です。未来に向かって「震災」を絶対に忘れてはいけないというメッセージも込められているような気がして、未来に連れていくというテーマでこの曲を選びました」

 

選曲の柱になったリスナーからの便り

 意図を持って曲を選ぶ一方、第2弾でも選曲の柱の1つになったのがリスナーからの便りだった。

「『The Final Time Traveler』を滑った2016年のニューイヤー・オン・アイス2日目は阪神淡路大震災が起きた日付でした。その公演を被災されたファンの方が見ていて、感動したし忘れられない瞬間であったという思いをひとことひとこと、大切にお便りにしてくださいました。読んだときに、忘れてはいけない曲だなと思いました」

 さらに『ノッテ・ステラータ』が続いた。

「これも未来につなげていくというテーマで選びました。日本語にすると星降る夜という題名です。羽生選手が東日本大震災のときに見た星空が美しかったというお話をされていて、この曲とどこか重なる部分があるんじゃないか、東日本大震災も絶対に風化させてはいけない、未来につながっていく曲なのかなと思いました」

 コンセプトに基づき、曲をセレクトしていった。そしてそのコンセプトだからこそ、制作にあたって挑戦したことがあった。(続く)

 

藤原菜々花(ふじわら ななか)
ラジオNIKKEIアナウンサー。2020年入社。中央競馬実況担当を目指し同番組に携わる。2022年5月に放送された『こだわりセットリスト特別編・羽生結弦選手特集』においては企画の立ち上げから取り組み、海外からも含め大きな反響を呼んだ。9月には第2弾を放送。この他『ななかもしか発見伝』『日経電子版NEWS』等も担当。