■DX企画・推進人材のための「リスキリング実践講座」(1)はこちら

 筆者は現在、住友生命保険に勤務し、デジタルオフィサーという役職でデジタル戦略の立案、執行を担当している。また、社内外のDX人材育成活動として年間40回以上の講演や研修を実施したり、社外企業数社の顧問としてDXの推進やDX人材育成のサポートをしたりしている。

 この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべき「企画・推進の仕事ができる力」の養成を目的としている。DXでは新しいことを学び、それを生かして仕事を行う必要があり、これまでの知識やスキルでは対応できない場合が多い。このため、「リスキリング」を行う必要があり、この連載ではそれが学べる。

「学習にはお金はいらぬ。スマホ一つあればよい」

 前回は、リスキリングの成功に必要な「学びの仕掛け」の要素に「理解していない自覚」と「学習動機」があることと、どのようにしたらリスキリングが進むのかを説明した。今回は次の「学びの仕掛け」である「スマホ学習法」について説明したい。

 住友生命グループで行っている「マインドセット」研修では、アクティブラーニングを取り入れ、できるだけ実務に近い形になるように工夫している。その研修の流れは、「①課題に対し、②スマホで検索し調べ、③グループで議論し、④発表し、⑤講師の評価を受け、良いところ、弱いところを指摘され、⑥講義を受ける」であるが、今回のテーマは、この②「スマホで検索して調べる」にあたる。

 「たかがスマホで調べるだけでしょ? そんなの誰でもやっているじゃないか」と言われそうだが、筆者が4年に渡って延べ600人にマインドセット研修を行ってきた経験で得たことは、「多くの人はスマホを学習や仕事で使うことが上手ではない。うまく使うと学習効果は向上するのにもったいない」ということである。

 では、それを具体的に説明していこう。

・どのような場合に有効なのか?

 リスキリングが進む条件は、この連載で既に説明しているように、「①理解していないと自覚している」かつ「②業務上必要で、ないと仕事が進まず困るというように学習動機が明確な知識項目」である。このことを、事例を使って説明しよう。

 電化製品を製造しているメーカーA社という会社があった。この会社は、卸売業者や量販店、専門店といった小売業を通じてお客さまに製品を販売していたが、機能面で他製品と差別化できておらず、ブランド力も乏しかったので、価格を下げて売るしかない状況に陥っていた。しかも、価格を下げて売れているうちは良かったが、価格を下げても売れないケースも増え、大変困っている。A社はどのような解決策を検討すべきであろうか。

・解決策にどうたどり着くとよいのか?

 このA社の課題を解決するには単純にデジタル技術を使うだけでは不十分な可能性がある。例えば、A社が情報家電を作って、顧客のスマホでいろいろな操作を遠隔でできるようにするというのはどうだろうか。

 これはデジタルを使って家電製品に価値を持たせる解決策だが、情報家電として新商品を開発したり、スマホアプリを作ったりすればコストが余分にかかり、商品価格が上昇してしまう。従来の販路(卸売り、小売りによる販売)のビジネスモデルのままでは、流通コストが今と同様にかかる上にデジタル化によって余分にかかったコストも消費者に転嫁せざるを得ず、その情報家電は価格競争力を失い、卸や小売りに売ってもらえない可能性が高い。

 このように卸や小売りを通して製品を売るビジネスモデルを変えないままデータを使う、デジタル化をするなど解決策を実施してもうまくいかない可能性があり、A社の場合はビジネスモデルまで踏み込んで見直すことが必要になってくるわけだ。

 このA社のケースの解決策の一つにD2C(DtoC=Direct to Consumer)モデルがある。D2Cは差別化された付加価値の高い商品をダイレクトチャネルで消費者に直接販売するビジネスモデルのこと。メーカーがD2Cに取り組みながら商品やそれに付随するサービスの価値を向上、商品のブランド力を高めた後で、販社に供給して消費者に届ければ、価格を下げずに販売することも可能になるというモデルだ。

・この場合に学習すべき知識は何か?

 このケースで課題を解決するには、D2Cに関する知識を学んでおく必要がある。D2Cではメーカーが直接消費者に売るので、メーカー側には販社に劣らない「ブランディング」や「デジタルマーケティング」に関する以下のような知識も必要になる。