組織を元気にする要素と仕掛け方が感じられた瞬間

 筆者は、デジタルエンタテイメント業界に関わる以前、金融業界で25年(日本興業銀行20年、ドイツ銀行グループ5年)、もっぱら投資銀行業務(インベストメントバンキング)や国際金融税務の領域でのキャリアを重ねていました。

 「人間万事塞翁が馬」と言いますが、運命の風の吹き回しなのか、2005年に金融業界からエンタテイメント業界に転身し、デジタルゲーム企業の米国法人でCOOとして経営職を経験しました。金融とは全く異なる世界でしたが、ダイナミックで「リアルダイバーシティー」とも言える2年間でした。

 2007年9月、米国拠点であるLos Angels から帰任した時に、当時のグローバルCEOより「今度は、本社クリエイターを総務力で元気にしてもらえないか」とのオファーを引き受けたこと(当時はいろいろな思いが逡巡しましたが・・・)が、結果的に10年にわたる筆者のクリエイティブ総務プロデューサー(職位としては総務部長)人生の始まりとなりました。

 今回は、筆者の実体験をもとにした『人と場への感性投資マネジメント手法』をベースとする「クリエイティブ総務」※1 の意味を紹介するとともに、組織の中で総務業務を担っている方々が、オペレーション総務や管理総務の業務範囲を「戦略総務」の領域にいかに広げ、各組織の現場にどのように応用していくかという実践の方法について記していきます。

 筆者は「総務」の何たるかをも知らぬままに総務部長を拝命したのですが、基本的なオペレーションや管理系の業務は、総務部員やパートナーズメンバーから教示してもらい、実践実務を通して体で覚えていきました。そして、これと並行して、総務が「元気な組織」を創るにはどうすれば良いのかを探索すべく、当時のオフィス(約7000坪のスペース!)の隅から隅まで歩き回り、各々の部署や部門、制作チームの組織の雰囲気とクリエイターの行動や表情などを観察・洞察・察察しました。

 この「現場の回遊」を毎日続けているうちに、組織と働く人々の「思い」や「意識」、そして社員スタッフの心情と組織・チームの課題感が少しずつ観(視/見)えてきました。

 総務FMの教科書に『Management by walking around」という教えがありますが、当時はこうした教えを知らぬままに、まさにこれを実践していたことになります。

 さらに、現場を「ぶらぶらウォーク」をしながら雑談を通して「現場の本音」が聞こえてくるようになると、組織を元気にしていく要素と仕掛け方である「場」つくりの方法論が、おぼろげですが感覚的に感じられるようになりました。

 その感覚とは、「働く人々(クリエイター)の心地を整えて幸福感受性(わくわく感)を醸成していける「場」を演出すれば、クリエイティブな創作意欲が刺激され、ひらめき的な創造性(セレンディピティ)が高まっていくのでは!」との想いでした。

 とはいえ、何ら根拠・証拠、そして裏付けがあるものではなかったので、総務素人の状況であった筆者は「オフィス学」をベースとした「人間科学&人間学」および「行動心理学」と「ヒューマンエンジニアリング(人間工学、感性工学、認知工学)」や「コミュニケーション学」等、オフィス空間と組織と人との関係性(生産性や創造性等)領域の研究(学び)を始めました。

 こう書くと、何やら難しいことのように見えますが、要は、どのようにすれば、クリエイティブワーカー(働く人々)が自律的かつ自立的に、わくわく(喜びを感じながら仕事への意欲を感じる意識状態)して仕事や活動に夢中・没頭できる「場」のプロデュースができるかを深く考えようとしたのでした。

 これは、現在、筆者が公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)の調査研究部会活動で5年にわたり研究している「人と場へのFM投資価値研究部会」のテーマでもあります。快適かつ心理的安全性にあふれるウェルビーイングに適応した「オフィスの時空間」がもたらす、人間の価値創造活動への影響と効果を可視化していく試みこそが、筆者の目指す「場」つくりであり、「クリエイティブ総務」のミッションと考えています。

 つまり、総務部長として「わくわく場つくり」の組織舞台創作とプロデュースを行うには、何が必要か、模索をしていったのです。その経験を具体的に紹介しましょう。

※1「戦略総務」という言い方もありますが、「場」のプロデュースにより人間の創造力を触発させる「総務力のデザイン&スタイル」を「クリエイティブ総務」と定義します。