GEヘルスケア・ライフサイエンス社で、営業とマーケティングという2つの分野でトップマネジメントを務めた飯室淳史氏。同社におけるグローバルのリーダーとして、全世界で展開するデジタルマーケティング戦略を統括するという稀有な経験を持つ飯室氏は、まさにBtoB企業における営業とマーケティングのスペシャリストだ。JBpressが6月30日に開催するオンラインセミナー「第2回 Marketing & Sales Innovation Forum」に登壇する飯室氏が、営業とマーケティングをめぐる昨今の風潮に物申すべく緊急寄稿してくれた。

なんでもかんでもコロナ禍が悪い?

 新型コロナウイルスとの共存が必要となった現在、「新しい生活様式」として、「相手と身体的距離を確保すること」「マスクの着用」「手洗いや咳エチケット」を徹底し、「三密(密集、密接、密閉)」を避けることが求められている(厚生労働省)。これまで以上に日常生活に、そしてビジネスにおいても同様に、今まで「当たり前」であったことが通用しなくなり、時代に合わせたビジネスを展開しなければならない・・・などと、まことしやかに言われるが、それは本当だろうか?

B2Bhack.com代表|世界有数のB2B企業であるGE(米ゼネラル・エレクトリック)ヘルスケア・ライフサイエンス社で、営業とマーケティング両方のトップマネジメントから日本の統括責任者および執行役員までを経験。マーケティングやセールスのデジタルツールを駆使し、グローバルデジタルマーケティングリーダーとして、全世界における同社のデジタルマーケティング戦略を日本から統括した異例のマーケティング実務と経営の経験者

 営業やマーケティングが口にするのは、「コロナ禍だから在宅勤務やリモートワークせざるを得ないので面談もできない」「コロナ禍だから消費者のニーズや購買プロセスも変化したから対応が追いつかない」「コロナ禍だから展示会もセミナーもオンライン化されて集客もままならない」「コロナ禍だから訪問商談を遠隔面談に切り替えざるを得ない」「コロナ禍だから従来の営業活動もマーケティング施策も極めて困難になってしまった」「コロナ禍だから売り上げが下がってしまった」etc.

 コロナ禍だから「ニューノーマル時代だ」と喧伝しているのは、それを利用して何かを売りつけたいだけのキャンペーンにしか見えないのは私だけか?それはともかく、もっといえば、目先の変化だけに囚われて、すぐに対応しようとしているのは単なるモグラ叩きでしかなく、本質的な問題を理解しないままの対症療法であり、根本的な問題を解決しないから、いつまで経っても問題がぶり返す、だからまたモグラ叩きを続ける悪循環なのだ。

 なんだか「できない」ことの言い訳に体よく「コロナ禍」が使われているだけのようだ。経営陣が急に「コロナ禍だからDXを加速しろ」だの、「コロナ禍だからデジタルマーケティングで突破口を開け」なども、同様にできない言い訳を突いただけのどこかの会社の売り込み文句をそのまま真似しているようにしか聞こえない。

「コロナ禍によって予測できない変化が起こり続けるニューノーマル時代が始まった」と今ごろ言っているようではもう遅いのだ。不確実で予測できない曖昧な世界のお客さまの変化は、コロナ禍なんかが始まるずっとずっと前からもう始まっていたのだ。いや、常にお客さまは変化し続けているのだ。

 それなのに、日本企業の経営者たちは、本当に変化に気づかないバカだったのか、あるいは気づかないふりをして、見ないふりをして、現状維持のままで定年まで逃げ延びようとしていただけで、もはや絶滅寸前だったところへコロナ禍が決定的な引き金を引いただけに過ぎないのではないか。なんでもかんでも脅威は全てコロナ禍のせいにしたがるが、脅威は外からやって来たわけではない。

 今の脅威は外からやって来たコロナ禍なんかではなく、社内にいる経営者や社員たち、そして営業とマーケティングが、これまでずっと外部の変化に気づけない・見ないふりをして、環境変化に適応しない・適応できない「自己変革能力の欠如」こそが本当の脅威だった、と気づいていないことだ。脅威は外ではなく内側にこそあったのだ。

もう営業もマーケティングも必要とされない

 今までもこれからも自己変革能力が欠如した「決められたことをうまくこなすだけ」の営業もマーケティングも必要とされてはいないのだ。いや、営業とマーケティングという区別だって必要なくなってくるのではないか。

 これまでは作る側に資本の原理が働いて、効率的に安くて良い物を生産すれば売れた時代、あるいは宣伝広告キャンペーンを駆使して、営業が地道に足を運べば売れた時代だったのかも知れない。そうした旧態依然としたシステムの中で専門性の高度化が求められてきたが、あくまでそれは売る側の原理としての専門性の高度化でしかない。

 それは企業目線で見れば当たり前のことだが、お客さまから見れば企業の中が営業とマーケティングに分かれていようがいまいが、どうでもいいわけで関係がない。あれは営業が勝手にやったことだとか、あれはマーケティングのキャンペーンが悪いだなんてお客さまには見えないし、良きにつけ悪しきにつけお客さまには関係のないどうでもいい話。

 私たちが営業とマーケティングに分かれて働いている、もちろんそれだけではなく、経営陣がいて、研究開発や製造・調達・物流・マーケティング・営業・アフターサポート・カスタマーセンターがいて、そして人事や法務やITなどのさまざまな部門がバリューチェーンでつながることで、お客さまのために役に立とう、価値を生み出そうと働いているが、それはお客さまにはどうでもいいことだ。

 それよりもお客さまにとって大切なのは、払ったお金以上の価値が手に入るのか、自分の成果を最大化できるのか、自分の事業目標やプロジェクトのゴールを達成できるかどうかだけに興味があり、そこには営業のおかげとか、マーケティングのせいだ、なんて私たちの機能や役割分担なんてお客さまの中には微塵も存在しないのだ。

じゃあ、どうすればいいの?

 でも、コロナ禍の生き残り戦略に限らず、変革に適応する自己変革能力の獲得方法には、正解も最適解もあるわけじゃない。これはいわゆる専門家の助言によって解決できるような技術的な問題なのではない。これは「失敗を恐れずに、リスクを取って決断し、失敗から学ぶ試行錯誤を、うまくいくまで繰り返し、個人も組織も学習する」しかない「適応課題」なのだ。

 だから残念だけど、私も「こうすればいい」という手順やハウツーなんか持っていない。ただ私の失敗だらけの経験から言えることは、営業もマーケティングも自分たちを主語にして問題を捉えている限りは、お客さまに必要とされないと言うことだ。

 営業とマーケティングの最適解について悩む前に、お客さまのことをどれだけ知っているか、知ろうとしているか、知ることができる関係にあるか、知ることのできる仕組みを持っているのか?目をとじて、胸に手を当てて考えてみてほしい。

 コロナ禍のニューノーマル時代の営業とマーケティングはどうあるべきか、と自分たちを主語にして問題を解決しても、それはお客さまにとっての価値を生み出せない。お客さまを主語にして、お客さまの目標達成を困難にしている問題を知り、その原因を突き止め解決して、お客さまを成功に導いてこそ「価値」として受け入れてもらえるのだ。

 そのためには、売るための機能である営業とマーケティングなんていう垣根を取り払ってでも、お客さまのために何ができるかを考えられる個人と組織になることが、ニューノーマル時代であろうがなかろうが求められていることではないのか?今回の講演では、その具体的な事例として、コロナ禍の数年も前に、某日本企業における「営業とマーケティングの区別なく全社員の努力とお客さまの価値を結びつける」プロジェクトの立ち上げに関わった私の生々しい体験をお届けしたい。そこから何を学ぶのかはあなた次第だ。

飯室淳史氏が登壇するオンラインセミナーの詳細はこちら
JBpress主催「第2回 Marketing & Sales Innovation Forum」