カンボジアのBakong(バコン)

 現在、このカンボジアによる、ブロックチェーン・分散型台帳技術(DLT)に基づく新たな決済インフラである“Bakong”(バコン)の構築が注目を集めています。

「バコン」とは、カンボジアにある有名なヒンドゥー教寺院の名称です。世界的に、ブロックチェーンや分散型台帳技術に関する公的プロジェクトのタイトルには、カナダのジャスパー、シンガポールのウービン、香港のライオンロック、タイのインタノンなど、各国の有名な自然公園や遺跡の名称が採られることが多くなっています。「バコン」もその1つといえます。

©️ Arian Zwegers

 昨年(2020年)10月28日に稼動を開始したバコンは、国内銀行や近年新たに参入している支払サービス業者、さらにはマイクロ・ファイナンス業者などを包含する決済インフラで、日本企業ソラミツが開発した“Hyperledger Iroha”という分散型台帳技術の基盤が使われています。これにより、カンボジアの人々がQRコードなどを用いて簡便に送金を行えるようにすることを狙っています。

©️ The National Bank of Cambodia

 カンボジアでは、銀行口座を持たない人がなお相当数いる一方で、携帯電話やスマートフォンの普及は急速に進みました。カンボジアの人口約1500万人に対し、携帯電話やスマートフォンの契約数はこれを上回り、既に約2100万件に上っています。これらを活用し、一気に「金融包摂」、すなわち、人々の金融サービスへのアクセスを推進したい意向が背景にあります。このような事情は、多くの新興国・途上国で共通しています。

 カンボジア中央銀行は、モバイル決済“M-Pesa”で有名なケニアや、フィリピン、南アフリカ共和国などのデジタル決済の事例を研究しながら、バコンの設計を進めました。

 カンボジア中央銀行によれば、バコンは「中央銀行デジタル通貨」ではありません。バコンはあくまで、国全体をカバーする業態横断的な共通アプリの構築などを通じて、既に構築済みの“FAST System”など既存のデジタル決済インフラの相互運用性を高め、その使い勝手を向上させるインフラであると説明されています。したがってバコンは、民間金融機関が提供している米ドル建て決済手段と自国通貨リエル建て決済手段を、ともにカバーするものとなります。とりわけ、これまでインフラが未発達であった国内通貨リエルについて、便利な決済インフラを用意することでその利用を促し、ひいては政策の独立性を確立していきたいとの意向も表明されています。

©️ The National Bank of Cambodia

 バコンへの登録には、カンボジアの国民IDカードまたはパスポート、さらに電話番号が必要となります。バコンを通じた取引の1回当たりの上限金額などは、各人がバコンの利用に際し契約をする銀行などによって定められます。