藤原 ただ、よくも悪くも、「文春砲」という言葉ができるくらい、〝そっち〟側に偏って見られているのは確かですよね。

新谷 世代にもよるかもしれませんが。

藤原 とは言っても、振り返ってみても、昔から『文春』って、そういう雑誌でしたよね? 角川の息子の騒ぎ(※4)とか。

新谷 藤原さん、渋いところきましたね(笑)。

藤原 あれは1990年代前半だったかな? あれが僕に取って初めての「文春砲」的なことですごく記憶に残っています。でもさっきブランディングと仰いましたが、この和田誠さん(※5)の表紙がもう免罪符じゃないですか。四文字熟語のような雑誌名とイラストだけという。ほかの下世話な週刊誌と同じことをやっていたとしても、この表紙にずるさがあるというか。

新谷 これで封じ込めている感じはありますね。だからどんな大スクープを取ったとしても、意地でも文字は入れないですよ。和田誠さんの表紙がわれわれの唯一の顔ですよ、というのはこれからも守ろうと思っていて。

藤原 今ふと思ったんですが、文藝春秋で『Sports Graphic Number』をやられているとしたら、そこに登場するスポーツ選手が「文春砲」に引っかかる可能性もあるじゃないですか。そのときはどうするんですか? いつも出てくれているからちょっとやめておこうかな、という忖度はあるんですか?

新谷 ないですね。

藤原 じゃあ今回対談したとしても、僕に対する忖度はないんですね? 僕が何かやらかしたら出ちゃうんですね(一同笑)。

新谷 そうなります(笑)。念のために申し上げておくと、私のモットーは「親しき仲にもスキャンダル」。いくら仲がよくても書きますよ、という。官邸には仲のよい政治家がいますが、毎週のように厳しいことを書いています。もちろん嫌がられるけれど、それでも付き合いは続いています。自分の中で忖度したり、その時々の政治状況を鑑みて与党や野党を批判するのはやめよう、みたいに考え始めると、すごく危険じゃないかと思って。

藤原 メディアとしてダメになっちゃいますよね。ブランディングが崩れてしまう。

新谷 あくまでファクトがベース。「ファクトの前では謙虚たれ」ってよく言うんですけれど。それが『文春』の生命線というか、守らなければいけないところかなと思います。

 かつて自民党の甘利明氏(当時経済財政・経済再生・TPP相)が、大臣室で羊羹の袋に包まれた現金をもらっていたという『水戸黄門』ばりのスキャンダルをうちが書きましたが(2016年)、本人への直撃取材のあと、私が親しくしている官邸中枢の人物から電話がかかってきました。「甘利さんががんばったTPPの調印式に行かせてやりたいから、なんとか記事を止められないか。しかも彼に金を渡している人間は、筋がよくないヤツなんだから」と懇願されたんです。

藤原 それ、余計に書かないとですね(笑)。

新谷 先方からは「今から会社に行くから」とまで言われましたが、「筋がよくない人間から金もらうのは余計よくないでしょ」と断りました。結局甘利氏は大臣を辞めて、自身が骨を折ったTPP交渉の調印にも行けませんでした。私に記事の差し止めを懇願した人物との友好関係はそこでぶっ壊れましたが、1年くらい経ってから、何事もなかったかのように「メシ行こうよ」と電話がかかってきたんです(笑)。もちろん行きましたよ。そんなことは何度もあります。

 

──藤原さんには、「親しき仲にもスキャンダル」みたいなモットーってあるんですか?

藤原 特にないけれど、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」は、競輪選手だった父によく言われていたなあ。

新谷 まさにその通りの生き方をされていますね(笑)。

 

(※4)角川の息子の騒ぎ── 角川春樹氏の長男、太郎氏が部下の男性新入社員にセクハラ行為で訴えられた事件。『週刊文春は』花田紀凱編集長時代の1993年にこの騒動をスクープしている

(※5)和田誠さん── 日本を代表するイラストレーター。1977年から40年以上にわたり、『週刊文春』の表紙を手がける。同誌は和田さんが2019年に逝去した後も、傑作選としてその表紙を掲載し続けている

 

藤原ヒロシと〝ロス疑惑〟!?

藤原 『文春』というブランドは、大メジャーにならないようにどこかでセーブするようなこともあるんですか?

新谷 ネットがこれだけ広まってしまうと、なかなか難しいですよね。信じられないくらい拡散しちゃうので、私たちのコントロールが及ばなくなってしまう。たとえばベッキーさんの不倫だって、別に彼女にあんなダメージを与えたいとは全く思っていなかったわけで。たまたま、男性との噂がない好感度タレントさんが身を焦がしていた恋が、道ならぬ恋だった。しかも相手のバンド名が「ゲスの極み乙女。」なんて、ちょっと面白いですよねっていう記事のつもりだったのが、大変なことになっちゃったわけじゃないですか。

藤原 すごく広がりましたもんね。先週、川谷絵音くんとご飯食べてたんですが、「来週『文春』の編集長と対談するんですよ」って言ったら、その場にいる人たちの話題が変わりましたね。「今僕なんでもリークするんで、メモリますよ」って(笑)。絵音くんはいまだに一度も謝っていないけれど、それを追い風にできるタイプだし、やっぱり上手いなと。そもそも、そこまで罪なことをした訳ではないんで。

 

新谷 そうなんですよね。お前が言うなって話ですけれど、渡部建も、川谷絵音も、そこまで悪いんですか?と。私たちは断罪しているつもりはないのに、結果的にそうなってしまっていることに対しては、忸怩たる思いがあります。

 『週刊文春』は、人間の裏の部分にある愚かさや浅ましさといった〝業〟の部分をけしからんといって否定したいわけではない。むしろ、「わかっちゃいるけどやめられない」というその人間臭さ、面白さを肯定したいという気持ちがベースにあるんです。

 川谷さんは、そういう意味では非常にわかってくれる人で。その後ご自分のミュージックビデオを『週刊文春』の編集部で撮りたいという連絡をもらったときは、どうぞ、どうぞと。私の編集長席に座ってもらったりして。そういうのは全然ウェルカムです。私たちは、別に彼の生き方や人格を否定しているわけではないので。

藤原 そうやって付き合っていければいいですよね。スクープを取られるのは本人がしたことだから仕方ないですが、その後の立ち振る舞いというのがすごく重要な気がしますね。それも本人のブランディングじゃないですか。

 絵音くんは、「ゲスの極み乙女。」のあの曲(※6)が不倫ソングみたいになっていて、他の人が不倫してもかかるから印税が入るって言っていましたよ(笑)。

新谷 さすが腹がすわってますね。

藤原 僕は不倫なんてくだらないし、放っておいたらいいと思う派なんですよ。でも最近はそれがメインになっていて、『文春』というメディアの、必殺仕事人的立ち位置と、ズレてきているのは確かだと思うんです。だから、この前の議員の汚職や、むかしの〝ロス疑惑〟(※7)みたいな記事に関しては、売れなかったとしてもバンバン行ってほしいですよ。

新谷 毎号きちんと読んでもらえれば、不倫ばかりやってるわけじゃないと理解してもらえるんですが、結局その手の記事ばかりが他メディアによって拡散されるので、そういう印象が強くなってしまう面があります。

 もともと『週刊文春』のスタンスって、新聞やテレビでは書けない、読めないようなことを伝える、という点にあったんです。それが有名になった一番のきっかけは、1981〜82年くらいにかけて報道された、三浦和義さんの〝疑惑の銃弾〟、〝ロス疑惑〟でした。

藤原 僕、三浦和義さんとご飯にいったことありますよ。友達が、三浦さんがやっていた「フルハムロード」(※8)というお店で働いていたので。

新谷 え〜っ!

藤原 僕、むかし景山民夫さん(※9)とラジオをやっていて、彼の事務所にもお世話になっていたことがあるんです。景山さんは、当時『オレたちひょうきん族』に〝フルハム三浦〟(※10)というキャラクターで出ていたんですが、彼が原宿で開いたライブに三浦さんご本人が登場したときに、僕も同じステージに上がったこともあるんですよ。その後結局三浦さんは亡くなられましたが、『文春』はその後も追っていたんですか?

新谷 追っていました。グアムの刑務所で亡くなったんですよね。

藤原 自殺ということになっていましたが、あの謎については解明されたんですか?

新谷 あの事件については、いまだにわからないことが多いですよね。それにしても、藤原さん、アンダーグラウンドな情報に詳しいですね! 何を言っても、「そんなの知ってますよ」という感じで。

藤原 僕、そういう話好きなんです。さすがに『文春』には『週刊実話』みたいな裏社会ネタは少ないと思いますが、右翼団体から抗議がきたりしないですか?

新谷 最近右翼はあまりありませんが、抗議や脅迫状なんかは今もよく来ますよ。監禁とか、身体的な暴力の危険性もつきまとっていますが、それは腹をくくってやっています。そういえばむかし私が抗争中の暴力団のトップにインタビューしたときに、若い衆たちのスウェットパンツのポケットが拳銃の形に膨らんでいたのを、今でも鮮明に覚えているなあ。しかもその後、一緒にインタビューした組織のナンバー2、ナンバー3はいずれも射殺されました。

藤原 映画みたいですね。

新谷 私が編集長になってから一番現場が青ざめていたのが、「酒鬼薔薇事件」の犯人、元少年Aの現在を追った記事。防刃チョッキを着て元少年Aを直撃した記者が、「お前ら命賭けて来てるのか、顔は覚えたからな」と言われて、1kmくらい走って追いかけられました。彼は一度見た人の顔を、カメラみたいに覚えられるという特殊能力を持っているんです。追いかけられた記者は「ヤクザより全然怖い」と言っていましたよ。