藤原 彼の冤罪説を書いていた革マル(※11)の人たちはどうなったんですかね?

新谷 めちゃくちゃ詳しいですね(笑)。

藤原 僕、酒鬼薔薇聖斗事件の本、毎回買っていたんですよ。新谷さん、模索舎(※12)という書店は行かれますか? 自主流通本を中心に扱っていて、マルクス主義からパンク、HIP HOPまでアンダーグラウンドな本が山のようにあるんです。ぜひ行ってみてください。僕もよく行くんですよ。

新谷 三浦和義に始まって、革マルまで。この振り幅には、ジャーナリズムの世界にいる人間でも全然ついてこれないかもしれないな。

 

(※6)あの曲── 「ゲスの極み乙女。」が2015年に発表した楽曲『ロマンスがありあまる』

(※7)〝ロス疑惑〟── 1981年〜1982年にかけて、アメリカ・ロサンゼルスで起こった銃殺、傷害事件。その容疑者となった三浦和義氏は当初被害者として同情が寄せられていたが、1984年に『週刊文春』のスクープ〝疑惑の銃弾〟により、状況が一変。三浦氏の特異なキャラクターも手伝って、メディアも巻き込んだ劇場型犯罪になった

(※8)「フルハムロード」── 〝ロス疑惑〟の容疑者となった三浦和義氏が経営していた輸入雑貨店。三浦和義氏は1970年代では珍しかったアメリカ古着の輸入を手がけるなど、洒落者として知られていた

(※9)景山民夫さん── 1947年生まれの放送作家。後年は小説家や「幸福の科学」への傾倒で知られたが、1970〜80年代に青春を過ごした人にとっては、当時のサブカルチャーを代表する人物として有名

(※10)フルハム三浦── 『オレたちひょうきん族』内の人気コーナー『ひょうきんプロレス』に登場した、景山氏が三浦和義氏をパロディ化したキャラクター。ふたりは似ていると評判だった

(※11)革マル── 日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派の略。「反帝国主義・反スターリン主義」を掲げた新左翼党派

(※12)「模索舎」── 商業ベースにのらないミニコミや小流通出版物を中心に取り扱う、新宿の書店。 1970年代に学生運動に身を投じた大学生たちによって設立された。http://www.mosakusha.com/voice_of_the_staff/

 

ふたりのミシマ論

藤原 新谷さんは学生時代、文学青年だったんですか?

新谷 藤原さんがDJやってたことで有名な、大貫憲章さんの「ロンドンナイト」(※13)に行ったり、飲んで遊んでました(笑)。三島由紀夫とか谷崎潤一郎なんかは好きでよく読んでいましたが、文藝春秋の中では全然でしたね。

藤原 最近「Rizzoli」から出版された三島由紀夫の写真集(※14)、担当者が僕の本と同じなんです。それで送られてきたんですが、当時の空気感の中で、三島由紀夫がああいう写真を撮ったり活動していたのって、周りの真面目な右翼や左翼からは認められていたんですかね? それともあまり相手にされてなかったのか? あの写真集だと、アングラなナルシストに見てしまう。どういう人たちから支持されてたのか、気になりました。

新谷 ちょっとコスプレっぽい。確かに自衛隊の中でも冷ややかに見ていた人も多かったでしょうね。一昨年公開された映画『三島由紀夫vs東大全共闘』(※15)という映画はご覧になりましたか?

藤原 はい。

新谷 私はあの時代は〝言葉がまだ生きていた時代〟だと改めてわかって感動したんです。三島と東大全共闘は、立ち位置も主義主張も全く相入れませんが、逃げずにお互いの言うことに耳を傾けたり、ときにはぶつけ合う。今の日本やアメリカって、ネトウヨとネトサヨに分かれて、ただただ分断してしまい、もはや議論にならないじゃないですか。そんな状況の社会であの映画を観ると、こんなにも言葉の力を信じてぶつけ合えていたあの時代の空気を、羨ましく感じてしまいますね。

藤原 あの映画の中で、三島が全共闘たちに放った言葉で、すごく腑に落ちたものがあるんです。ここに机がある。職人がつくった美しいもので、机であることを最終目的にされているのに、君たちはこれをバリケードとして使う。これでは机としての役目を果たしていないのではないか……。用途の目的の変更とか、難しいことを話しているんですが、僕は、これが保守と革新の意識の違いを露わにしているのかなと思いました。僕は双方の考え方が美しいと思います。

新谷 観るポイントが深いですね。

藤原 僕的には、机が机として凛と佇んでいるのも美しいけれど、バリケードになっている様も美しいと思う。両方を美しいと感じられるけれど、彼らにとってはそこが境界線なのかな、って。

新谷 すごく面白い!藤原さんのそういうカルチャーやアンダーグラウンドな世界への関心って、もともとのベースであるパンクやHIPHOPカルチャーからの影響もあるんですか? 権威や権力で抑えつけようとするものに対する、無意識的な反発というか。実は私の中にも、そういうところがあるんです。

藤原 もしかして世代もあるかもしれません。僕は三島由紀夫の〝言葉での戦い〟のように、アカデミックなことが格好いいと思っていた、ギリギリ最後の世代なんです。しかしその後どこかで、お金そのものが価値観として上位に来た。お金や、お金を得るためにすることが、格好いいトレンドになってしまったんです。だから僕の世代の前と後では、けっこう差があるような気がしますね。

新谷 私たちの高校生時代に、田中康夫さんの『なんとなく、クリスタル』(※16)が出たんですよね。ブランドをありがたがる風潮が、『POPEYE』などと相まって広まっていくという。

藤原 カタログ世代というか。

 

──​振り返って、あの時代はよかったな、というのはあるんですか?

藤原 僕は全くないですね。いつも今が一番だと思っています。

 

(※13)大貫憲章さんの「ロンドンナイト」── UKロックに造詣の深いDJ、大貫憲章氏が1980年から主催している、日本初のロックDJイベント。当初は新宿テアトルビル5Fにあったディスコ、ツバキハウスで行われていた

(※14)三島由紀夫の写真集── 『Yukio Mishima:The Death of a Man  OTOKO NO SHI』。篠山紀信氏が、三島由紀夫の死の数ヶ月前に撮影していた写真が収録されている。表紙は三島氏のデスマスク。切腹する侍や競技中に絶命したスポーツ選手などに三島氏が扮するというショッキングな内容だったため、本人の割腹自殺後お蔵入りになっていた。日本での刊行は未定

(※15)『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』── 1960年代を代表するカルチャースター三島由紀夫と、暴力革命を是としていた東大全共闘による討論会の全貌を明かすドキュメンタリー。2021年2月26日にブルーレイ&DVDが発売予定。https://gaga.ne.jp/mishimatodai/

(※16)田中康夫さんの『なんとなく、クリスタル』── 1980年に、当時一橋大学生だった田中康夫氏が発表した小説。略称は『なんクリ』。東京在住の裕福な若者しか理解できないブランドや固有名詞が全編にわたって散りばめられており、それぞれに田中氏の主観による脚注が添えられている。物質至上主義へと変化を遂げていく時代を予見した作品

 

※対談の後編は13日にアップされます。ご期待ください!

 

PROFILE

しんたに・まなぶ(編集者)

1964年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科を経て、1989年に株式会社文藝春秋に入社。『スポーツ・グラフィック・ナンバー』『マルコ・ポーロ』編集部、『週刊文春』記者・デスク、『文藝春秋』編集部などを経て、2012年に『週刊文春』の編集長に就任。圧倒的なスクープ力で、同誌を日本を動かすメディアへと成長させた。2020年より週刊文春編集局、ナンバー編集局担当の執行役員に就任。その劇的な半生は柳澤健氏によるノンフィクション『2016年の週刊文春』(光文社)に詳しい

 

ふじわら・ひろし(Fragment Design)

1964年三重県生まれ。1982年頃からロンドンやN.Y.に渡航し、パンクやヒップホップといった最先端カルチャーの中心人物と交流を深める。1980年代前半からは東京のクラブシーンに新風を吹き込むミュージシャンとして、1980年代後半〜90年代前半からはストリートやアートに根づいたファッションを生み出すプロデューサーとして、東京のみならず世界のカルチャーシーンに絶大な影響を及ぼす。近年ではデザインスタジオ「Fragment Design」名義で、世界的なメゾンブランドやナショナルブランドとのコラボレートを数多手がけている。