それは偶然? それとも必然? ファッションとジャーナリズム。それぞれの分野に革命をもたらし、今もなお圧倒的な熱量と輝きを放ち続けるふたりのキーパーソンが、ついに出会った。ウェブマガジンRing of Colourとのコラボレートでお届けする対談企画、まずはふたりが語るメディア論から。「文春砲」の是非から三島由紀夫まで、〝忖度なし〟で語り尽くす。

写真=KO TSUCHIYA  構成・文/高村美緒(Ring of Colour)、山下英介

ふたりは同学年

──片や30年以上にわたってファッションシーンの中心に君臨し続ける、藤原ヒロシさん。片や日本のジャーナリズムを牽引する、「文春砲」の新谷学さん。世間的には真逆のイメージを持たれているかもしれないふたりですが、実は1964年生まれの同学年! まさに同じ時代の空気を吸ってきたんですよね。

藤原 新谷さんは大学生時代、〝ブルックス ブラザーズ〟でアルバイトされていたんですよね? どうしてそれで文藝春秋に入ってしまったんですか?

新谷 実は『POPEYE』もやりたかったんですが、マガジンハウスは書類で落ちてしまったんです。それこそ藤原さんは『POPEYE』(※1)でアルバイトされていたんですよね?

藤原 はい。高校を卒業した18歳〜19歳頃に、編集部に出入りしてました。でもマガジンハウスに落ちて入った会社が文藝春秋って凄くないですか?

新谷 それも縁かな、と思って。そういえばスタイリストの山本康一郎さん(※2)はお知り合いなんですよね? 

藤原 はい、まさに『POPEYE』の頃から。

新谷 私も友だちで、実は今日着ている「文春リークス」のロゴ入りスウェットは、康一郎さんのブランド〝スタイリスト私物〟(※3)につくってもらったんです。3種類で220着つくったのですが、4000人以上から応募があって、30分で完売しました。メルカリでは30万円の値段がついたものもあったそうですよ。

藤原 時代ですね。

新谷 それもひとつのブランディングかな、と思って今日着てきました(笑)。

 

※1『POPEYE』── 1976年に創刊し、日本の社会風俗に多大なる影響をもたらした雑誌。編集部員のみならず、アルバイトからも多彩な人材を輩出している

※2山本康一郎さん── 1961年生まれ。『POPEYE』のエディターとしてキャリアをスタートし、30年以上にわたり第一線で活躍するスタイリスト・クリエイティブレクター。関わった人の誰もが感服する、センスと洞察力の持ち主

※3〝スタイリスト私物〟── 〝常連客のわがままを形にする〟という発想で、山本康一郎さんが自身の愛用品に別注をかけるレーベル。不定期で発表されるその商品は、常に発売後即完売する人気ぶり

 

文春ビジネスは「アリ」なのか?

──そもそも藤原さんは『週刊文春』を読んだりするんですか?

藤原 読みますよ。だいたい飛行機に乗って「何か読まれますか?」と聞かれたときは、『文春』と『新潮』って言ってます。でも、忖度なしに『文春』の方が面白いですよ。

新谷 めちゃくちゃ嬉しいですね。その言葉自体が『文春』のブランディングになってます(笑)。

藤原 僕の俗っぽい感情のあらわれかもしれませんが、『新潮』って変な真面目さがあるというか、振り切れていない気がします。

新谷 『新潮』はシニカルなんですよね。結構文学や哲学に傾倒していて、ドロッとした情念がある。それに対して『文春』は、もっと明るい野次馬根性というか。「てぇへんだ、てぇへんだ!」のノリですね(笑)。

藤原 文藝春秋って、雑誌は『文春』と『文藝春秋』のほかにどんな雑誌があるんですか?

新谷 『文學界』や『CREA』、私が編集局長をつとめている『Sports Graphic Number』などがあります。そして、なかでも今私が力を入れているのが、『文春オンライン』というニュースサイトです。

 ウェブメディアの場合PV(ページビュー)が運用広告の収益につながってくるので、それを増やしていくという方針を立てました。そこで2019年の4月から『週刊文春』の編集局の中に『文春オンライン』も入れて、一体化。『文春』のスクープ力をフルに使い、そのコンテンツを『文春オンライン』でどんどん拡散できるように改革したんです。

 それによって『文春オンライン』は現在急成長を遂げていて、もとは5000万くらいだったPVが4億くらいまできている。そうなると、この雑誌不況の時代でもかなり稼げるようになっているんです。

藤原 オンラインは課金制なんですか?

新谷 『文春オンライン』自体は無料ですが、「これ以上詳しく読むにはお金を払ってね」ということもやっています。下世話な話題だから藤原さんに嫌がられるかもしれませんが、2020年は渡部建さんのスクープをうちが取りましたよね? あのときビジネス面で何が起こっていたかというと、『週刊文春』本誌で50万部を刷って完売させたのに加えて、その特集記事を『文春オンライン』からヤフーやLINEに導線をはって300円で売ったんです。記事のバラ売りですね。

 それがあっという間に4万本くらい売れて、PVは9000万。さらにワイドショーがうちの記事を使う際にいただく記事使用料などを合わせて、あっという間に数千万円の収益が、紙の雑誌以外からもたらされました。

 現在はこのように、ただスクープや価値のあるコンテンツをつくるだけじゃなく、それを使っていかに稼ぐか?という仕事まで編集者には求められています。もともと編集者は雑誌や本が好き、という気持ちで入ってくるわけですが、よい本をつくるだけでは誰にも届かず終わってしまうという現実があります。あらゆるメディアがぶち当たっている壁がここですね。

藤原 ファクトを掲載するという意味で、百歩譲って下世話なネタっていうのはあってもいいかもしれないし、メディアとしてお金を稼がなくてはいけないのはもちろんわかりますが、そういう具体的なビジネスの話を聞いてしまうと、道徳的にどうなんですか?という気持ちになりますね。

新谷 そのご指摘の意味は私もよく理解しています。ですから私が現場に口を酸っぱくして言っているのは、収益を上げる部分と、メディアとしてのブランドを守る部分とのバランスをしっかりとろうよ、ということです。私は「スクープに貴賎はない」と思っているので、政治、芸能どちらもあっていいけれど、収益が最優先になってしまうと、一気に下世話に傾いてしまうので。

藤原 その問題ってメディア云々というより、デジタルのあり方ですよね。デジタルになった途端、その記事が300円で買われるとか、ダイレクトな話になってしまう。それはメディアのせいだけではなく、世間の人々の「渡部さんのネタだったら300円払います」っていう、下世話な気持ちの金額でもありますからね。

新谷 本当に鋭いご指摘ですが、まさにデジタルってそういう世界で、ストレートに言えば、俗情丸出しの部分があるんですよ。きれいごとが通じない。

藤原 そうですね。しかも匿名性がある。

 

「NO忖度」が文春のブランド

新谷 何にならお金を払うかってことが、格好つけずに〝見える化〟してしまう世界。だから、読まれた記事の量だけでランキングをつけると、下世話だらけになりかねない。そんな中で、いかに『文春』のブランドを守りながら世の中にニュースを伝えるかが、一番苦労しているところなんです。

 たとえば、河井克行夫妻が公職選挙法違反で逮捕されたっていう事件のきっかけは『週刊文春』のスクープだったんですね(詳細はこちら)。お金と人材を大量に投入して、結果あの号が売れたかと言うと、たいして売れないんですよ。やっぱり地味だし、本来新聞社がやるようなネタじゃないですか。でもあのスクープが出たことによって、あらゆるメディアや捜査当局、東京地検特捜部が後を追いかけて事件になった。その結果、「やっぱり『文春』に書いてあることは本当だよね」「『文春』は安倍一強政権でもリスクをとって戦うメディアだよね」という評価を得ることができるんだと思います。

 ブランディングという言葉が正しいのかわかりませんが、こういうスクープは私たちの看板を磨くことにつながります。ただこれだけではビジネスにはならなくて、商業ジャーナリズムで生きていくには、渡部さんのようなスクープも必要。このバランスをどうやって取っていくか、が最大の課題です。