デジタルトランスフォーメーション(DX)の本質を考えると、必然的にアジャイルに期待することになる――。2020年11月17日から2日間にわたってオンラインで開催された「Agile Japan 2020」(主催:アジャイル ジャパン 2020 実行委員会)の基調講演で、経済産業省商務情報政策局情報経済課・アーキテクチャ戦略企画室長の和泉憲明氏は、DXとアジャイルの関係をこう表現した。
和泉氏は経産省が2018年9月に公開した「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」の実質的な著者である。このレポートは、既存のITシステムがデータ利活用・連携の足かせとなってDXの効果が限定的になりかねないといった課題を指摘。そのうえで、市場の変化に対する経営の柔軟性の欠如や、老朽化したITシステム、IT人材不足などがDXの実現を阻むばかりか、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失を生む可能性があると警鐘を鳴らした。
「2025年の崖」として知られるようになったDXレポートでの警鐘は、DXの推進に前向きな国内企業が既存システムの抜本的な刷新の検討に乗り出す重要なきっかけになった。
全体の改革にまで結び付けるのがDX
「DXレポート」では、「あらゆる企業がデジタル企業に変革する」ことを述べているが、その好例として和泉氏が基調講演で紹介したのが宮崎大学医学部付属病院のケースである。
同病院の看護師はAndroidスマートフォン(スマホ)を携帯して病室をまわる。院内物流や患者の本人認証にQRコードを導入しており、たとえば点滴の際、スマホで点滴と患者のQRコードを読み取って誤りがないことを確認できる。
看護師の作業はスマホで「かざす」「撮る」が中心になった。ノートパソコンを載せたカートを押す必要もなければ、パソコンへの入力作業なども生じない。そのためスマホを充電するとき以外、看護師は基本的にナースステーションに戻ることはなく、常に患者に向き合っているという。
看護師の業務を対象にしたシステム導入の効果は絶大だったそうだ。和泉氏によると国立大学の付属病院は看護師の離職率が高く、新たな看護師をいかにして採用するかが大きな経営課題になっている。宮崎大学医学部付属病院も例外ではなかったが、このシステムで働き方が変わり超過勤務が劇的に減ったことで、離職率は従来の半分以下にまで低下したという。