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投資信託(投信)を購入するときにかかる販売手数料の無料化(ノーロード化)が、大手ネット証券を中心に加速しています。
SBI証券は2019年12月16日から、取り扱っているすべての投信(約2700本)の販売手数料を無料にしました。同社が取り扱っている投信のうちノーロードはこれまで半分程度でしたが、今後はすべてがノーロードになります。
楽天証券も同日からすべての投信をノーロードにしています。取り扱い投信数やノーロード投信の割合もSBI証券と同程度でした。両社に先駆け、松井証券は12月9日から、マネックス証券は12月13日から全取り扱い投信のノーロード化を始めています。また、auカブコム証券(旧カブドットコム証券)も2020年1月14日から、すべての投信の販売手数料を無料化する予定です。
ネット証券に限れば、投信はもはやノーロードが当然という時代になったということです。
投信運用会社の主な収益源は信託報酬
投資家の低コスト志向が進んでいるなかで、ノーロード投信が増えることは歓迎すべきことです。おそらく今後も、販売手数料や信託報酬など投信に関わるコストの低価格化は進んでいくでしょう。そこで、ふと思ったのは「低コスト化がどんどん進んだ場合、投信の運用会社の経営は成り立つのだろうか」ということです。
ご存知の通り、投資家が負担する投信の主なコストは販売手数料と信託報酬です。販売手数料を平均すると投信を購入した代金(買付代金)の2~3%くらいでしょうか。このコストは投信を販売した証券会社や銀行の収入になります。
一方の信託報酬。投信の種類や販売会社によって違いがありますが、平均すると投資している資産のうち年間1.0~1.5%程度が差し引かれています。このコストは今回の無料化とは違う話。これが運用会社の投信における主な収益源となっています。
信託報酬の半分程度は販売会社へ行ってしまう
たとえば、ある運用会社が運用している投信の平均信託報酬が1%だとします。受託資産が100億円なら信託報酬による収入は1億円、資産1000億円なら10億円の収入・・・とはなりません。
投信の信託報酬は、運用の「委託者(運用会社)」と販売した「販売会社(証券や銀行など)」、資産を保管・管理する「受託者(信託銀行)」の3者で分け合う形になっているからです。その配分はおおむね、運用会社45%、販売会社55%、信託銀行5%くらい。運用会社が得る信託報酬は全体の半分程度、販売会社の方が高い割合になっていることが多いのです。
上記の例だと、受託資産が1000億円なら運用会社が得る信託報酬は5億円弱です。1000億円を受託して一般事業会社でいう売上高が5億円弱。この金額が高いか低いかは判断が分かれるところでしょう。
より少数精鋭と効率化が求められる運用会社
もちろん、販売会社を通さず投資家に直接販売する「直販投信」であれば販売会社への信託報酬の配分はないので、その分を運用会社が得ることになります。現実として、系列の販売会社をもたない独立系の運用会社は直販投信からスタートしたところが多いようです。
また、運用会社のなかには証券会社や銀行で販売している一般の公募投信だけでなく、主に機関投資家に向けた私募投信や企業年金基金などの運用を受託しているところがあります。そこからの信託報酬もあるので、公募投信だけが収入源というわけではありません。
筆者の私見では、運用会社では意外に事務作業が多く、バックオフィスに相応のスタッフが必要になるようです。また、投資家へのサポート体制やシステムには、常に拡充とアップデートが求められています。余計なお世話なのですが、運用会社の健全経営には少数精鋭と効率化が今後、より求められていくような気がします。
販売会社の構造改革は始まっている
低コスト志向という投資家ニーズが高まっていくことは間違いないでしょう。販売手数料がネット証券においてほぼノーロード化されたいま、これからはネット証券以外の対面販売における販売手数料と信託報酬が、より注目されていくはずです。そこでクローズアップされるのは、投資家の納得感と金融機関の効率化ではないでしょうか。
投資家が投信のコストに納得できないと感じる点は大きく2つあると思われます。1つめは、投資損益に関わらずコストが淡々とかかっていること。この投信のコスト体系は理解しているつもりでも、なかなか釈然としない面があります。2つめは、コストに見合ったサービスを受けているかどうかがわからないことです。
効率化については言うまでもありません。販売会社が大きな店舗と多くの社員抱えたままでは、投資家が「この陣容を賄うには・・・」と、うがった見方をしてしまうのも否定できません。インターネットやAI(人工知能)を最大限に活用することで、投資商品から市場動向、投資家のライフプランまで相談できる深い知見をもったアドバイザーの効率的な育成と配置が期待されます。
投資家からの預かり資産金額をベースにした賃金体系や転勤のない勤務形態、IFA(金融機関に属さない独立系のファイナンシャル・アドバイザー)の活用など、いわば販売会社の構造改革は一部の金融機関ですでに始まっています。投資家一人ひとりの目的(ゴール)を強く意識した理論的な投資アドバイスを実現する試みも始まっているようです。その取り組みや試みをもっと具体的かつ広く知らせることができれば、投資家の納得感も少しずつですが高まっていく気がします。
コスト以外にも目を向けよう
一方の投資家にも課題は残されています。低コストを志向するあまり、商品選択の眼が狭くなってはいないでしょうか。
限界まで低コスト化が進めば、わかりやすいモノサシで投信を比べることが難しくなります。自分の目的に合った投信を選ぶ眼を養ううえでも、投資哲学や商品設計、リスク特性などコスト以外の部分も比較検討する姿勢をいまのうちから心がけたいところです。
どの商品や市場も同じですが、過度な低コスト化は誰も幸せになりません。投信市場でいえば、その一翼を担う運用会社が疲弊して投信運用の継続性に不安が出てくることも考えられます。金融機関系列や預かり資産が大きいなど経営体力のある運用会社ばかりになっては、健全な競争原理が働く市場とはいえないでしょう。
投信のコストは今後、投資家と金融機関が共存できる“適正価格”にまで下がり、収れんされていくのではないでしょうか。そこで初めて、両者が同じ立場で同じ目的をもって資産運用に取り組むことができるようになると思います。これからの投資家は合理的かつ厳しい眼で金融機関を見守りながら、投信市場を育てる仲間として一緒に歩んでいくことが求められます。





