政府による働き方改革関連法の施行もあり、テレワークを本格的に導入し始めた大企業は珍しくない。だが、アフラック生命保険は働き方改革という言葉が今ほど浸透していなかった2015年から改革をスタートさせた。「アフラックWork SMART」と名付けられた働き方改革実現のために実施したテレワーク推進が成果を上げたことで、2016年には「テレワーク先駆者百選」に選出され、2018年には「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」で「特別奨励賞」、2019年には「テレワーク先駆者百選」で「総務大臣賞」を受賞した。
制度、組織、技術などのあらゆる面でテレワーク成功の先例が少なかった時期に、あえて全社レベルの改革に乗り出し、成功できた秘訣はどこにあるのか。膨大かつ秘匿性の高い個人情報を有する保険会社でありながら、セキュアなテレワーク環境を達成した点も含め、今や多くの大企業がアフラックの事例から学ぼうとしている。そこで今回は同社でテレワークなどを含む働き方改革に取り組むダイバーシティ推進部の亀岡宏氏と髙代公美氏に話を聞いた。
初期段階のトラブルは覚悟の上
「まずはやってみよう」の精神でスタート
アフラック生命保険では、社員一人ひとりの「仕事の進め方・働き方の見直し」を経営課題として挙げていた。そのような中で、アフラック流・働き方改革といえる「アフラックWork SMART」という基本方針を掲げた。
亀岡 宏氏(以下、亀岡氏)単なる時間外労働の削減ではなく、仕事の付加価値を高めることとライフの充実により個々人がワークライフマネジメントを実践していくことが重要だということを、経営層が明確にしたことが大きかったと思います。
髙代 公美氏(以下、髙代氏) あらゆる立場、あらゆる職務にいる者が今よりも生産性を上げ、なおかつ個々のライフを充実させていく働き方をするには何が必要なのかを改めて議論し、2015年に発表したのが「アフラックWork SMART」だったのです。
経営戦略として「アフラックWork SMART」というスローガンのもとに働き方改革の実現が進められることになった。「SMART」とはアフラックが最重要ポイントとして選択した5つの働き方の原則で、See the big picture(視野を広く持つ)、Maintain focus(目的を考える)、Act with initiative(自分から動く)、Respect dialogue(対話を重ねる)、Think time-value(時間を意識する)の頭文字による造語だ。
亀岡氏 当社が考える働き方改革を実現するには、この5つの働き方の原則を実践するとともに、時間や場所による制約にとらわれずに働けるようにすることが不可欠だ、ということで、テレワークの導入を検討することになりました。
テレワーク実現へのチャレンジがこうして始まったことになる。しかし「経営層がまず課題を提示し、その実現のためメンバー間で意識改革が叫ばれる」ところまでは、多くの企業が実践している。問題は総論ではなく実践における各論だ。特に大規模な組織では、社員の意識改革をサポートするための体制づくりや、技術面も含めた環境整備のための具体策を実行する局面で頓挫するケースが多い。
髙代氏 そこは社風が追い風になってくれました。確かに当社は正社員だけでも5000名を超えますし、営業拠点は国内に90カ所、販売代理店の数も1万店を超える大所帯ですから、働き方を変革するために新たな制度を導入したり、システムやデバイスの改善や増設を進めたりしようとすれば、多くの制約条件をクリアしていく必要がありました。でも「一度やると決めたなら、まずはやってみて、そこから改善点を拾い上げていこう」という社風が行き渡っていることもあり、動きは速かったです。
「まずはやってみよう」の精神は、例えば「在宅勤務を社員各自が年に1度は経験する」というように具体的な目標とルールを設定していくことで実行されていったという。注目すべきは、こうした各局面で「まずは経営層から実行」という精神が発揮されていたことである。
亀岡氏 ここでも社風が追い風となりました。経営戦略として取り組むことになったダイバーシティの推進ですから、現場の社員に「まずやってみよう」と働きかける立場である管理職が先に体験をするべき。何がどう面倒で、どんな感覚を覚えるのかを自分自身が経験したうえで部下に働きかけるのが当然だという価値観を全社で共有していたので、管理職クラスがテレワークを体験した後、各部署の社員も実行していきました。もちろん、初めての在宅勤務経験では課題点が続出しました。
髙代氏 例えば個人情報などを含むデータをやりとりするため、VPN(Virtual Private Network、仮想専用線)接続をした上で会社のネットワークにアクセスすることをマストにしていますが、その接続がうまくいかないというケースもありました。またSkypeを用いた電話会議をしようとしたけれども、初めて手にしたSkypeの操作がよく分からなかったという社員もいました。
ただし、ダイバーシティ推進部の両氏はこうした初期段階の問題を微笑みながら「最初からうまくいくはずがありません。対応は大変でしたが、覚悟していました」と振り返る。