富士フイルムほど大きな事業変革を続けている企業は少ないだろう。そしてその変革はまさにデジタル化がキーワードだ。デジタル変革をこれからも続けるために重要視している技術は何か。富士フイルムホールディングスの執行役員CDOである依田章氏に、デジタル分野における経営陣コミュニティ「CDO Club Japan」理事の鍋島勢理氏が聞いた。(JBpress)

デジタル変革はずっと以前から始まっていた

――現在のデジタル化の潮流をどう捉えていますか。

 デジタル変革はかなり以前から始まっていて、これからもずっと続いていく、と考えています。デジタル化の原動力になっているのは、ムーアの法則のような半導体の集積度の向上や通信技術の進化などで、これらの動きは昨日今日始まったわけではありません。トランジスタや集積回路ができたころからずっと続く変化の中に、現在もあるということです。

 当社がデジタルの変革の必要性を感じ始めたのは1970年代です。当時、コンシューマ向けの写真フィルム、レントゲンフィルムに代表される医療用のフィルム、印刷用のフィルム、この3つが当社の大きな事業でしたが、この頃から世の中では画像分野でデジタル化の兆しが少しずつ現れていました。いずれも電子化の波がやってくるだろうと考え、デジタル技術の研究開発をスタートし、デジタル時代を自ら開拓しようと取り組みました。

 一番先に進んだのが医療分野です。1983年には、X線診断画像のデジタル化を実現するFCR Fuji Computed Radiographyを世界に先駆けて発売しました。1988年には世界初のフルデジタルカメラも開発しました。その後90年代末にデジタルカメラの需要が本格的に拡大し、2000年をピークに写真フィルムの需要が急速に減っていったのはご存じの通りです。