オンラインサービス体験から見えてきたこと

 これらの体験を通じて分かったことは以下のようなことであった。

・オンラインサービス“ならでは”の体験がある
 単なるリアルの代替ではなく、オンラインならではの体験を生み出せるということがわかった。例えば、旅行におけるミクロな発見、結婚式における新郎新婦の笑顔の共有、離れた場所にいる友達との共通体験、効率的で相談しやすい環境での品定めといった体験だ。これらは、これまでのリアルな方法では体験しづらかったことである。

・リアル+オンラインの相乗効果が期待できる
 オンライン旅行をきっかけとして実際にその土地に行く、オンラインショールームを経てリアル店舗に行くといった行動が期待できる。逆に、リアルな訪問者に後日オンラインサービスで「麺打ち」体験を提供するといったパターンも、よい体験になると感じた。またリアルとオンラインを併用することにより、オンラインゲーム体験のように、離れた場所の人でもその場にいるかのような感覚で参加できるといったメリットもあった。

・オンラインの煩わしさもある
 ゲームのオペレーションの煩雑さ、麺打ち教室の備品不足といった煩わしさもあったのは残念な体験であった。オンライン旅行では、通信状態が悪いタイミングを別のスタッフのトークでつなぐなどの工夫も見られた。リピーターを獲得するためにはこのあたりは重要だと考えられる。

オンラインサービス成功のポイント

今回の体験を踏まえ、オンラインサービス成功のポイントを以下のように考える。

・オンラインならではの体験価値づくり
 リアルの代替としての体験だけでは価値が不十分である。「リアルではできなかったがオンラインではできること」をいかに作り込んでいくかがポイントとなる。

・リアルとオンラインの相乗効果を狙う
 リアルとオンライン双方のチャネルを持っている、あるいは今後導入するのであれば、その相乗効果を狙うことが経営上重要である。しかし、そのポイントはあくまで、よいCXがその顧客行動を引き出すという考え方でなければならない。そうでなければ、単にチャネルを増やしてコスト増になるだけである。

・カスタマージャーニーを明確にする
上記2点、あるいは体験から見えた“煩わしさ”の解消など、これらを解決するためのカスタマージャーニーを明確にすることが重要である。 申込み~体験、さらには体験後までの流れの中で、どのような体験をしてもらいたいのかを設計する。具体的には、どのような行動をしてもらいたいのか、感情を持ってもらいたいのかといったことを作り込んでいく。登場人物も体験者本人だけでなく、共同参加者(ゲームのパートナーや結婚式の参列者など)についてもデザインする。

 ここまで、オンラインサービスの実体験を元に、所感を述べてきた。現状、過渡期にあると考えられるオンラインサービス。成長するか、衰退するかは、CXをいかに作り込むか。その一点にかかっている。

コンサルタント 渡邉聡(わたなべ さとし)

株式会社日本能率協会コンサルティング
経営コンサルティング事業本部 CX・EXデザインセンター
シニア・コンサルタント

サービス産業を中心に、CS経営推進、サービスデザイン、新サービス開発、サービス生産性向上、業務改善、顧客対応力強化といったテーマで20年以上のコンサルティング経験を有する。著書に「サービス産業におけるサービス品質向上」など