野中郁次郎氏:撮影 木賣美紀 (左)、写真提供:共同通信社(右)
『マネジメント』(ダイヤモンド社)をはじめ、2005年に亡くなるまでに、39冊に及ぶ本を著し、多くの日本の経営者に影響を与えた経営学の巨人ドラッカー。本連載ではドラッカー学会共同代表の井坂康志氏が、変化の早い時代にこそ大切にしたいドラッカーが説いた「不易」の思考を、将来の「イノベーション」につなげる視点で解説する。
組織は放っておけば内向きになる。外の世界に背を向けたとき、私たちは何を失うのだろうか?
内向きの始まり
組織は放っておくと必ず内向きになる。むしろ、そのようにできていると言ってよい。この事実を知らない人は少なくない。大事なことなのでもう一度言う。組織は放っておくと必ず内向きになるのだ。
ここでいう「内向き」とは、具体的には「半径10メートル」、つまり直属の上司の姿が見える範囲を世界の全てと錯覚してしまう心理状態のことだ。そうなると、組織の壁の向こう側で何が起こっているかにまったく想像が及ばなくなる。
映画『ショーシャンクの空に』は刑務所を舞台にした作品だが、モーガン・フリーマン演じる囚人レッドが、新入りの主人公にこう言う。
「壁の内側に入れられると、最初は怒る。やがて諦め、ついには依存するようになる」
この言葉は、物理的な壁よりも心理的な壁の方が強く働くことを示している。人が重力にあらがえないのと同じように、自然にそうなってしまうのだ。
組織が大きくなり、複雑になればなるほど、その傾向は強まる。顧客や市場という外部の世界より、稟議(りんぎ)や上司への報告、他部署との調整といった内部の論理が優先されるようになるからだ。






