(写真左から)JBpress autograph編集長の鈴木文彦、自動車経済評論家の池田直渡氏、モータージャーナリストの岡崎五朗氏(撮影:榊水麗)
自動車経済評論家の池田直渡氏とモータージャーナリストの岡崎五朗氏が、JBpress autograph編集長の鈴木文彦とともに、自動車業界のニュースを一般的な報道とは異なる視点で語る動画番組「JAPAN INNOVATION CHANNEL(イノチャン) みんなが言わない自動車NEWS」。第1回の番組後半では、世界的なEV政策の大きな転換と日本メーカーの今後の対応について議論が交わされた。日本の自動車産業がさらに磨くべき真の競争力とは。
日産とホンダの経営統合破断について
鈴木文彦 ここからは、日本自動車産業のこれからと題してお話ししていただきたいと思います。先日パシフィコ横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展」(5/21-23)に行ったのですが、日産の第3世代の「e-POWER」をはじめ新しいハイブリッド技術についての展示が印象的でした。
日産のe-POWERシルフィ。走行も可能なエンジンを発電にのみ利用し、直接駆動に利用しないのがe-POWER。第3世代へとアップデートした後は、発電に特化したエンジンを使用することが決定している(出所:日産)
一方でホンダは、四輪電動化戦略の軌道修正について「ビジネスアップデート」と題した説明会を5月20日に開催し、三部敏宏社長はEV開発への投資をいったん縮小して、ホンダのハイブリッドシステム「e:HEV」を進化させていくと語りました。つまりEV一辺倒の電動化の風向きが変わっているように感じています。
岡崎五朗氏(以下敬称略) ハイブリッド技術については、日産とホンダの協業という文脈で興味深い話があります。当時ホンダ社内の関係者に話を聞いたところ、「われわれのe:HEVの方が日産のe-POWERより優れている。仮に経営統合が実現した場合、e-POWERは廃止して、e:HEVに統一すべきだ」という意見が多数を占めていました。
ホンダ アコード e:HEV Honda SENISNG 360+。e:HEVはホンダ独自の2モーターハイブリッドシステム(出所:ホンダ)
私は、経営統合破談の一因がこうしたホンダの姿勢にあったと考えています。確かに特定の条件下ではホンダのe:HEVの方が燃費性能で優位です。しかし市街地走行などにおいては、e-POWERも決して劣っておらず、e-POWERには電動駆動によるパワーフィールという一般のハイブリッドにはない魅力があります。
ホンダが「うちの方が優れているのだから、e-POWERはやめるべき」と言うのなら、「トヨタのTHS(トヨタハイブリッドシステム)の方が燃費性能が優れているから、ホンダのe:HEVもいらないですよね」という発想になります。

このように、技術の多様性を認める土壌や寛容性がホンダに欠けていたことも、今回の提携破談の重要な要因の一つだと思っています。
池田直渡氏(以下敬称略) 世間では日産が一方的に悪いとされていますが、私もホンダに原因があると考えています。基本的にホンダは企業として“勝ちたい”という気持ちが強いが故に、他社を軽んじる傾向があります。

一方でトヨタを見ると、まさに横綱相撲の姿勢といえるのですが、他社の取り組みに対して常に強い関心を示しています。例えばダイハツがハイブリッドの開発を希望すれば「それならば進めてください」という寛容な態度を示します。そして「良い技術が完成すれば、ぜひわれわれにも提供してください」として、ダイハツが開発した「ライズ」のような商品をちゅうちょなく展開します。
ライズはダイハツの「DNGA(ダイハツニューグローバルアーキテクチャー)」を採用したトヨタ車として2019年発売。2021年11月にダイハツが開発した「e-SMART(イースマート)ハイブリッド」搭載モデルが追加された(出所:トヨタ)
これからの時代において企業間の協業を成功させるには、相手企業が長年にわたって築いてきた顧客との関係、サービス体制、そしてサプライヤーとの間に構築された技術的信頼関係など、全てを包括的に受け入れる姿勢が必要です。「ウチが勝つか相手が勝つか」といった対立的な発想ではなく、トヨタのようにそれぞれの技術を適材適所で活用し、共存を図ることが重要なのです。
岡崎 いずれか一方の技術に統一すれば、数値的な効率は向上するでしょう。しかし、自動車は顧客が存在する商品であり、「私はこちらが好みだ」「いや、私はあちらの方が良い」といった多様な嗜好(しこう)に応える必要があります。そこに数値的な合理性のみを持ち込んでも、決して成功することはないでしょう。そうした顧客視点を欠いた経営統合は必ず失敗するものであり、今回の破談は結果的に良い判断だったと言わざるを得ません。







