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グローバル化とデジタル化が進む中、変化の激しい時代に対応するため、歴史や哲学を含むリベラルアーツ(教養)の重要性が再認識されている。本連載では、『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)の著書があるマーケティング戦略コンサルタント、ビジネス書作家の永井孝尚氏が、西洋哲学からエンジニアリングまで幅広い分野の教養について、日々のビジネスと関連付けて解説する。
今回は、アメリカの古生物学者スティーヴン・ジェイ・グールドの『ワンダフル・ライフ』を取り上げる。「カンブリア紀の爆発」は、進化は必然か偶然かという問いに揺さぶりをかけた。奇妙な化石が示すのは、生物進化の歴史観を一変させる驚きの事実だった。
カンブリア紀の爆発が教えてくれること
「カンブリア紀の爆発」をご存じだろうか。5億数千万年前のカンブリア紀以前は、地球上の生物の種類は、多くなかった。ところが、カンブリア紀になると生物の種類は爆発的に増え、現存する主な動物群のほぼ全てが、数百万年の間に出現した。数百万年というと長い年月に思えるが、数億年単位で考える地質学では一瞬の出来事である。
なぜ5億年以上前の出来事が分かるかというと、1909年にカナディアン・ロッキーの標高2400mにあるバージェス頁岩(けつがん)と呼ばれる化石地層から発掘された、数多くのカンブリア紀における生物の化石のおかげだ。ここから見つかった化石の動物群を「バージェス動物群」と呼ぶ。
このバージェス動物群は、図のように実にユニークな形状をしている。今回紹介する『ワンダフル・ライフ』の著者であるスティーヴン・ジェイ・グールドは、これらを「奇妙奇天烈生物」と呼んでいる。
出典:『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた 』(KADOKAWA)
実は当初、これらの化石を発見した古生物学者チャールズ・D・ウォルコットは、バージェス動物群を「現存する生物の祖先」と分類した。そして半世紀の間、誰もこの分類に反論しなかった。1960年代後半になって、英国の古生物学者ハリー・B・ウィッティントンらがこれらの化石を精査し始めた。彼らの結論は、こうである。
「これらの生物の大半は、現在や過去の生物のどれにも属さない」
この結果が、従来の生物進化の歴史観を一変させた。






