
ビジネス書の名著・古典は多数存在するが、あなたは何冊読んだことがあるだろうか。本連載では、ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、名著の「ツボ」を毎回イラストを交え紹介する。
今回は、人も自然も犠牲にしないビジネスと組織の在り方を説く『リジェネラティブ・リーダーシップ』(ローラ・ストーム、ジャイルズ・ハッチンズ著、小林泰紘訳、英治出版)を紹介する。結果を追うほど見失うものがある──。一次産業に学ぶ新たなリーダーの思考とは?
結果を手放す「一次産業的思考法」とは?
『リジェネラティブ・リーダーシップ』(ローラ・ストーム、ジャイルズ・ハッチンズ著、小林泰紘訳、英治出版)
私が北海道十勝郡の浦幌町に通い始めて3年が経つ。この土地で「うらほろアカデメイア」というリーダー育成のプログラムのファシリテーターを務めているからなのだが、毎年4~5回浦幌町へ通い、酪農、農業、林業など一次産業に従事する人たちと対話し続けてきた。その経験から、私なりに「一次産業的思考法」とでも言うべきアプローチが見えてきた気がしている。
一次産業というのは、自然環境が最大のパートナーとなる。当然ながら、自然は自分たちが思うようにコントロールできず、そしてその全容を理解することもできない。そんな難解なパートナーだからこそ、一次産業従事者には共通するマインドセットがある。それは、「結果を手放す」というものだ。
強い結果責任を持ってしまうと、つじつまを合わせるために無理をしてしまうことになる。言うまでもなく、その無理は時間差でしっぺ返しを私たちにもたらす。
例えば、害虫発生を完全に抑えようとして、無理に同じ種類の殺虫剤を短い間隔で散布し続けてしまうような事例がある。当初は葉を食い荒らす虫の姿が消え、収穫量も安定するのだが、生態系から天敵がいなくなり、残った害虫が薬剤に適応して抵抗性を獲得した結果、「スーパー害虫」の発生を招くことになる。その結果、被害はかえって拡大し、対策は効かず、薬剤の種類と量を増やす悪循環に陥るのだ。






