化学大手の日本ゼオンが、新たにデジタルビジネスのプロジェクトを始動した。将来的な事業の柱に育てていくことを視野に入れ、全社プロジェクトとして注力しているという。日本で初めて合成ゴムを製造した歴史あるメーカーが、なぜ新領域に踏み出したのか。「両利きの経営」の提唱者チャールズ・オライリー教授の日本における共同研究者・加藤雅則氏が、その狙いや立ち上げの経緯など、プロジェクトリーダーの關本(せきもと)崇文氏に聞いた。

マテリアルズインフォマティクスを活用した新事業を探索

加藤雅則氏(以下、敬称略) 日本ゼオンは合成ゴムの製造を中心に発展してきた会社です。その会社が、デジタルビジネスに乗り出したきっかけは何だったのでしょうか。

關本(せきもと)崇文氏(以下、敬称略) そもそものきっかけは、当社の研究所におけるデータ活用を進めていこうというものでした。

 当社の主力は原料ゴムを販売するエラストマー事業です。このお客さまであるゴムの部品メーカーや加工メーカーに対し、自社開発した「データマネジメントシステム」を提供しています。部品メーカーは、原料ゴムにさまざまな配合材を加えて練り上げ、タイヤやエンジン部品などのゴム製品を製造します。製品の種類によって、配合のレシピも必要な試験項目も異なります。

 データマネジメントシステムは、そうしたお客さまの研究開発業務を支援するもので、実験計画や、ゴムサンプルの評価結果といった多様な情報をデータベースに登録し、検索・活用できるようにしています。

 そんな中、近年、素材・材料の世界では、個人の勘や経験に頼るのではなく、ITを使って開発の高速化・効率化を図る「マテリアルズインフォマティクス(MI)」が注目されています。