千葉工業大学 変革センター主席研究員、ConnectSphere代表取締役の岡瑞起氏(撮影:榊美麗)

 人工知能(AI)の進化が著しい。今やビジネスの場では生成AIやAIエージェントの活用が広がり、今や汎用人工知能(AGI)の出現も現実味を帯びてきた。そうした中、従来とは異なるアプローチで人工知能をさらに進化させようとする「人工生命(ALife)」の研究が進んでいる。

 人工生命実現の重要なカギとなるのが「オープンエンドネス(終わりなき進化)」という概念。オープンエンドネスとは何か。人工生命はAIをどう進化させ、ビジネスにどのような影響を与えるのか。人工生命の研究者である千葉工業大学変革センター主席研究員、ConnectSphere代表取締役の岡瑞起氏に聞いた。

オープンエンドなアルゴリズムがアイデア創出を担う

――生成AIの次の技術として「人工生命」(Artificial Life:ALife)が注目されています。そもそも人工生命とは、どのような技術なのでしょうか。AIとの違いは何でしょうか。

岡瑞起氏(以下、敬称略) 人工生命とは「あり得たかもしれない生命(Life as it
Could be)」を人工的に作り出そうという研究分野のことで、私たち研究者は自然界の生命の進化をコンピューター上で再現しようとしています。地球上には今、単細胞の微生物から枝分かれした多様な生き物がいますが、その進化は今も続いています。そうした「終わりのない進化」を実現しようというのが、人工生命の研究です。

 これに対して、AI研究は「人間の知能」をコンピューターで再現しようという試みと言えます。

 人工生命の研究では、自然界の終わりなき進化を「オープンエンドネス(Open-Endedness)」と呼び、目的を持たなくても新しい形態や機能が生まれ続けるアルゴリズムを開発しようとしています。近年では、こうした試みが一部のAI研究にも取り入れられつつありますが、その起源は生命進化に根ざしたAlifeにあります。

 というのも、自然界の終わりなき進化によって高度な知性を持つ人間が生まれたように、人工生命が実現すれば、高度な知能を持った新たな“生命”が誕生する可能性があるからです。事実、2025年に開催されたAIの国際学術会議ICLR(International Conference on Learning Representations)では、「Open-Endedness, World Models, and the Automation of Innovation」と題された基調講演が行われ、AI分野における注目の高まりがうかがえます。