日本発のソウル行きLCCには、K-popの推し活、Kビューティーショッピングなど、韓国カルチャーに吸引されて海を超える女性客が目立つ。アナタがそれをチョット冷ややかに眺めてしまう意識高い系ならば、ズバリ推したい韓国文化がある。現代アートだ。

アジアのアートマーケット、成長のトップを走る街は東京ではない

東アジアの現代アートマーケットは2000年以降、爆発的に成長した。象徴的だったのが、2013年に世界一のアートフェア「アートバーゼル」(本拠地はスイス、現在マイアミ、パリでも開催)が、香港で開催されたことだ。現在、市場の三強はアメリカ、イギリス、中国(香港)だが、それに猛追するのが韓国だ。

ソウルでは国際的アートフェア「フリーズ」が2022年にスタート。韓国の大型アートフェア「KIAF」(キアフ)が同じ日程で開催され、内外のアートコレクターがソウルに集結する大盛況ぶりを見せた。この年、ソウルのアート市場規模は約9億ドルに達している(東京は2−3億ドル)。 

ソウル、地下鉄サムスン駅近くのパブリックアート。近未来的なビル群のデザインに似合う
貿易センターCOEX前の野外アートで、記念撮影する人が絶えない

さて、今さら聞けない人のために軽く説明すると、「アートフェア」とはギャラリーの見本市で、多数のギャラリーがブースを構えて作品販売をする。国際的なメガギャラリーから地元の若手ギャラリー、ブルーチップ(有名作家)からエマージング(新進作家)までを、一度に品定めできる。

スイスの金融機関UBSのレポートによると(※)、コレクター達のアート購入額は中央値で年間5500万円。各地で開催されるアートフェアをプライベートジェットで巡るような富裕層もザラで、そんなVIPのおもてなしができることも、フェア開催地には重要だ。マイアミでは、ビーチに一流シェフの仮設レストランが立ち並び、ソウルではフリーズが開催された2022年、BTSらKアイドル達がパーティーに登場してゲストを沸かせた。韓国政府はフリーズソウル開催誘致に約50億ウォンを投入して支援した。アートフェアの活気は、その国の文化的イメージ、経済にも大きな影響を与える。

※The Art Basel and UBS Art Market Report 2025より、2023年のデータ

K-popの成功を応用して爆誕 現代アートの楽園、ソウル

K-POPの成功モデルを応用しながら、官民がタッグを組んで、韓国は瞬く間にアートで世界的なプレゼンスを獲得した。この流れを「官製ブームでは?」とツッコむ向きもあろう。しかしこれに刺激を受け、ソウルでは地元に有機的なアートの動きが生まれ、育っている。2024年にスタートしたアートフェア「ART OnO」は、その象徴だ。

ソウル貿易展示コンベンションセンター(SETEC)で4月に開催された「ART OnO」2025。アートフェアが複数開催される9月をあえて避けた

 昨今、世界各地でアートフェアが増加するにつれ、高額な出展費などのコスト回収のため、ギャラリーが手堅く売れやすい作品を出品する傾向が強まった。コレクターからは保守化、マンネリ化との評判も囁かれはじめ、息切れしたように閉幕するフェアも現れた。

「ART OnO」がこうした既存のフェアと異なる点は、売上よりもアートファン目線を優先していることだ。「西洋発信のアートフェアでは見られないものを、もっと見たい」と世界中のアートフェアを巡るコレクターでありながら、このインディペンデントなフェアを自ら立ち上げた、ディレクターのジェイことノ・ジェミョン氏は、自ら参加ギャラリーを指名し、出展料を低く抑えている。このため、アジアの若いギャラリーたちは個性的なプレゼンで勝負できる。「Art OnO」のタイトルに込めた思いは、One and Only「独立的で、唯一無二」だ。

「ART OnO」ディレクターのノ・ジェミョン氏。まだ30代のアートコレクターだ

食べられるアート、「おばあちゃんの家」風のプレゼンテーションも

2025年4月、第2回の「ART OnO」オープニングに訪問した。

韓国アーティストの大型彫刻。「ART OnO」は、前回よりアジアのギャラリーの出展を増やしている

会場で、さっそくユニークな光景が目に入った。大きなテーブルが設置され、マルチジャンルアーティストチーム「SUPERMADE」の、食の体験作品だ。相席した観客同士を結びつけ、食の記憶、コミュニティ感覚に誘う。こんな作品は、拝金主義的なアートフェアにはない。

「SUPERMADE」のタイ人アーティストが、伝統的な食儀式を再解釈した体験型の作品

遊び心のあるプレゼンテーションは、日本から参加した7軒の一つ、小山登美夫ギャラリーのブースだ。 

初参加した日本の小山登美夫ギャラリーのブース。ほっこりした空間に作品が

韓国の70〜80年代の普通の家のリビングルームを再現し、「若い観客に『おばあちゃんの家みたい』と、面白がってもらいたい」という。コアなアート購買層(40−50代)より下の世代へもアピールしたいようだった。 

レトロな韓国の家具に作品展示。このアートフェアのリラックスムードを象徴していた
2023年に日本で個展をしたトム・サックスの作品も展示した小山登美夫ギャラリー
アーティストの村上隆率いるkaikaikikiも初参加。陶芸家・村田森の作品を出品

キッズプログラムもある。いまアートコレクターのボリュームゾーンは、戦後のベビーブーマーから、その子や孫へ世代交代しつつある。韓国は、将来アートマーケットを支える世代への教育にも熱心だ。

会場内に設けられたキッズラウンジ。女性客の多さもこのアートフェアの特徴だ