大谷 達也:自動車ライター
まずはビッグニュースから
フェラーリの最新フラッグシップクーペ、12チリンドリ(イタリア語で「ドーディチ・チリンドリ」と発音)の国際試乗会に参加するため、ルクセンブルクまで足を伸ばした。
12チリンドリについては、今年5月に寄稿した記事でその基本的な成り立ちをご紹介した。しかし、今回の試乗会で、V12エンジンの今後に関する重大な情報を耳にしたので、まずはそちらをご紹介しよう。
排ガス規制やCO2排出規制が年々強化されるなか、ハイパフォーマンスなV12エンジンの延命が日増しに難しくなっているのは紛れもない事実だ。実際、現在も販売されているV12モデルは、ターボチャージャーを装備しているかプラグインハイブリッドと組み合わせているかのどちらかで、規制をクリアするうえでもっとも困難な自然吸気式V12エンジンをハイブリッドの助けを借りることなく製品化しているのは、いまのところフェラーリだけである。
このV12エンジンを開発するため、フェラーリは4年の歳月を費やし、ようやくヨーロッパの最新排ガス規制「ユーロ6e」をクリアしたことは、今年5月のリポートで触れたとおり。そして今後導入されるユーロ6e-bisやユーロ6e-bis-FCMといった規制を、F140系と呼ばれるV12エンジンがクリアできる見通しであることも、先のリポートで紹介した。
難問は、その次に控えるユーロ7である。これは2028年1月ごろに導入される見込みだが、排ガス基準が一層厳しくなるうえ、タイヤやブレーキが摩耗する過程で大気中にまき散らされる粉じんの量まで規制されるため、エンジンを搭載する高性能車が生き延びるのはほとんど不可能と予想する向きが大半を占めていた。
しかし、12チリンドリの国際試乗会に出席したフェラーリのエンジン・エンジニアによれば、彼らはいま、ユーロ7に対応したV12エンジンを開発中で、すでに同規制をクリアできる見込みも立っている模様。それ以前に、そもそもユーロ7の導入時期自体が不透明というが、そうしたなか自然吸気式V12エンジンを1日も長く長らえるようにするため、マラネロの技術者たちは懸命の努力を続けていると教えてくれた。V12ファンにとっては、なんとも頼もしい話である。
ストレスゼロの乗り心地
さて、ルクセンブルクで試乗した12チリンドリは、事前の予想以上に快適性に優れたモデルだった。
誤解のないように申し添えておくと、12チリンドリに搭載された排気量6.5リッターのV12エンジンは、9250rpmの超高回転域において830psもの最高出力を発揮。0-100㎞/h加速はたったの2.9秒、最高速度は340km/hに到達する世界最高峰のハイパフォーマンスカーである。
しかし、市街地を走らせてみると、そんな高性能振りが信じられないほど乗り心地は快適で、エンジン音も低く抑えられていたのである。おまけに、V12エンジンは大排気量にものを言わせて低回転域でも分厚いトルクを発揮するから、信号待ちからの発進でも頼りなさは皆無。しかも、速度のコントロールが容易なため、市街地から郊外路、高速道路に至るまで、どんな車速域でもストレスを感じることなく、自在にドライブできたのである。
しかも、サスペンションの動き出しがしなやかで、従来型812スーパーファストよりもゴツゴツ感が伝わりにくい足回りに仕上がっていた。これもまた、ストレス・ゼロの乗り心地といっていい。
さらにいえば、高速道路に足を踏み入れても、ワイディングロードを軽快に駆け抜けても、12チリンドリはドライバーの意図にぴったりと寄り添った走りを見せてくれた。それどころか、812スーパーファストに対して20mm短縮されたホイールベースと、独立制御式4WS(後輪操舵が左右独立して制御可能なため、素早いレーンチェンジなどでは左右の後輪を個別に駆動し、より俊敏なレスポンスを実現する)を装備した恩恵か、ステアリングの切り方次第では812スーパーファストを凌ぐくらいシャープなハンドリングを示したのである。