忍者のしかけであふれる車内

 楽しいしかけはこれだけで終わらない。ドアを見ると、内側に忍者の姿が描かれている。その理由はというと、列車が駅に到着してドアが開くと忍者が見えなくなり、閉まるとまた忍者が現れるというしくみになっているのである。

カーテンを引き出すと手裏剣が現れるしかけなどは、まるで宝探しのよう

 床は石畳の模様になっており、カーテンを下げてみると柄が手裏剣。車椅子スペースの壁は板塀デザインで、車内灯を差し込む器具にも手裏剣が描かれているなど、細部にわたっても忍者に関するしかけであふれており、緑色の車両にいたっては一部の吊り輪が手裏剣型にもなっているのだ。このように大きな資金で機器や設備を導入したのではなく、アイデアや工夫を凝らして楽しめる空間を作り上げたというところに、ボクは愛着を感じずにはいられない。

手裏剣型の吊り輪は緑色の列車のみ。ただし車内は木目のデザインで忍者ムードは控えめだ

 その気概や意志は車両だけでなく、PR活動や駅などにも見受けられる。地元の伊賀市は2017年に忍者市として宣言し、忍者を活かした観光誘致やまちづくりを進めてきたが、伊賀鉄道も2019年に路線を忍者線に、本社のある上野市駅を忍者市駅の愛称として、よりいっそう忍者色を深めている。その忍者市駅のホームの屋根やコインロッカー、建物の外壁などにも忍者が潜んでおり、まさに神出鬼没。手裏剣と忍者のご当地駅名標はフォトスポットにもなっている。

正式名よりも愛称の方が大きい忍者市駅。腰折屋根を十字方向に重ねた特徴的な外観で、国登録有形文化財に登録されている

 さて忍者線を走る「忍者列車」だが、嬉しいことに普通列車として運行されているので、特別な料金や予約は不要である。どの色の車両がどの列車で運行されるかは、前日の17時以降に忍者市駅(0595-21-3231)に問い合わせれば教えてもらえる。

 忍者市内では忍者の衣装をレンタルしての散策や手裏剣打ちが体験できたり、忍者の博物館まであったりするので、列車のみならず忍者の文化にとことん触れてみるのもオススメだ。