代表作《20世紀の記憶》が圧巻

「三島喜美代―未来への記憶」展示風景。《20世紀の記憶》(部分)1984-2013年 耐火レンガに転写(1万600個) 個人蔵

 その後も生活の中で出る「ゴミ」をモチーフに、次々に陶のオブジェを作り出す三島。だが、当初の感動は少しずつ失われてきた。

「小さいのばかり作っていると、なんか手仕事みたいで、思うようにポッと出来てしまうのが面白くなくなってきた。何か挑戦したくなって、拡大してガリバーみたいにすればどうなるかな、と思って。そのときフランスから菅井汲が帰ってきていて、相談したら『おー、やれやれ、絶対面白いよ』と。それにふいっと乗ってしまったんですね」

 巨大な空き缶、巨大な新聞紙……。三島の作品はガリバーのように巨大化。やがて美術館の一室を使うような大規模なインスタレーション作品も手がけ始めた。

「三島喜美代―未来への記憶」展示風景。《20世紀の記憶》1984-2013年 耐火レンガに転写(1万600個) 個人蔵

 三島の集大成といえるインスタレーション作品《20世紀の記憶》。本展では展示室1つを丸ごと使って公開されている。約200平方メートルの床に敷き詰められた、使い古した耐火レンガブロック1万個余り。その空間はすべての物音が奪われてしまったかのように、ただただ静か。爆撃による焼け野原にも、都市の廃墟にも見える。もしかすると情報の波に押しつぶされて崩壊した未来の光景なのかもしれない。

 それぞれのレンガの表面には、三島が20世紀の100年間から選んだ新聞記事が転写されている。「東京オリンピック開幕」「利根川教授にノーベル賞」などの見出しの文字を、はっきりと読むことができる。現代に蘇る前世紀の記憶の波。圧倒的なスケールと重厚感に畏怖のような恐れを感じるとともに、ずっと眺めていたいと強く惹きつけられた。

 

尽きることがない創作意欲

「三島喜美代―未来への記憶」展示風景。《Work 17-C》2017年 陶、転写、彩色、鉄 ポーラ美術館

 三島の作品には言い知れぬパワーが宿り、そしておもしろい。時折、恐怖が顔を覗かせることもあるが、圧倒的におもしろい。難解さはなく、すっと心に入ってくる。ゴミ問題を題材にしていても押しつけ感がなく、「もっと自分もゴミ問題について真剣に考えないといけないよな」と自然に思うことができる。

 三島自身もゴミ問題や環境問題とナチュラルに向き合っている。三島は80年代、巨大な作品を制作するため、岐阜県土岐市に窯とアトリエを構えた。ある日、三島は土岐の人から制作に欠かせない陶土も有限の資源であると聞く。三島は代わりになるものを探し、再生素材である溶融スラグと廃土を使って作品を制作するようになった。時代の変化に合わせながら、地球に優しいことを目指している。

 三島喜美代。1932年生まれの92歳。今も、バリバリの現役だ。「今も変なものを作ろうと思って、わくわくしている。皆が『何やこれ』と言うのを聞きたい」と笑う。