マティス、南仏ニースへ
マティスは1917年のニース滞在をきっかけに同地で制作に励むようになり、第一次世界大戦終結後の1918年に移住。ニースのアトリエにはマティスが集めた世界各地の家具や調度品、オブジェが並び、マティスはそれらからインスピレーションを受けつつ、ひとつの舞台を作り上げるかのように創作に励んだ。
1924年制作の《小さなピアニスト、青い服》は室内でピアノを弾く女性がモデル。背後の壁一面に、赤地に装飾模様が入った布が掛けられている。この布は「赤い“ムシャラビエ(アラブ風格子出窓)”」で、実際にマティスが所有していたもの。マティスは自分のコレクションを周到に配置し、絵画の舞台としたのだ。展覧会ではこの絵画と布を合わせて鑑賞することができる。
ニース時代のマティスは創作活動の幅をぐっと広げていく。1920年にバレエ作品「ナイチンゲールの歌」の舞台装置と衣装デザインを担当。1930年にはアメリカのバーンズ財団から注文を受け、約13メートルの装飾壁画《ダンス》の制作に取り組んだ。そして最晩年にはニース近郊の街ヴァンスにて「ロザリオ礼拝堂」の建設に挑む。
切り紙絵は「究極の技法」
60年以上にわたって熟慮と試行を重ねたマティス。そんなマティスが最後に編み出した“究極の技法”が「切り紙絵」だ。切り紙絵とは様々な色を塗った紙をハサミで切り抜き、それらを組み合わせて作品に仕立て上げたもの。色紙をハサミで切り取ることで、色彩表現とデッサンを同時に行うことが可能になり、作者の感情をダイレクトに伝えることができる。マティスはそこに究極性を見出したのだ。
展覧会では切り紙絵の人気シリーズ『ジャズ』や代表作《ブルー・ヌードⅣ》が展示されている。なかでも410×870㎝に及ぶ大作《花と果実》は必見。本展のためにフランスで修復され、日本では初公開となる。この巨大なスケールで、色彩を自由にコントロールできるマティス。“色彩の魔術師”は、やっぱりすごい。