20世紀芸術の巨匠アンリ・マティス。切り紙絵の大作をはじめ、ニース時代にスポットを当てた「マティス 自由なフォルム」が国立新美術館でスタートした。

文=川岸 徹 撮影/JBpress autograph編集部

アンリ・マティス《紅い小箱のあるオダリスク》1927年 ニース市マティス美術館蔵 ©️Succession H.Matiss

今年もマティスの名品に会える!

 20世紀を代表するフランスの芸術家、アンリ・マティス。昨年、東京都美術館で開催された約20年ぶりとなる大規模な回顧展「マティス展」をご覧になった方も多いだろう。初期から晩年まで各時代の代表作を網羅した充実の内容で、来場者数30万人を突破するヒットを記録した。そんな記憶も新しい今年2月に、再びマティスの名品に出会えることになった。国立新美術館で開幕した「マティス 自由なフォルム」だ。

 昨年のマティス展はパリにあるポンピドゥー・センター/国立近代美術館の全面協力により開催されたが、今回のマティス展はニース市マティス美術館が主催に名を連ね、同館のコレクションを中心に展示が構成されている。南仏のニースは、マティスが後半生の大半を過ごした街。そのためマティスが最後にたどり着いた究極の技法「切り紙絵」とマティスが自身の芸術の集大成として建設に取り組んだ「ヴァンスのロザリオ礼拝堂」が展示のメインになっている。

ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部再現

 

最初期&フォーヴィスム時代の名画

 さっそく展覧会場へ。聞いていた通りニース時代の作品が中心だが、予想以上に初期やフォーヴィスム時代の作品が多くてうれしくなってくる。

アンリ・マティス《本のある静物画》1890年 ニース市マティス美術館蔵 ©️Succession H.Matiss

 1890年、虫垂炎を患ったマティスは療養中に母親から暇つぶしにと絵具箱を贈られた。その絵具を使って描いた《本のある静物画》。マティスは後年、この絵を「私の最初の絵画」と語っている。カンヴァス右隅には、本名の「H.Matisse」を逆から綴った「essitaM.H」のサイン。当時21歳だったマティスの、お茶目なユーモアセンスが垣間見える。

アンリ・マティス《マティス夫人の肖像》1905年 ニース市マティス美術館蔵 ©️Succession H.Matiss

 1905年の《マティス夫人の肖像》は緑系と赤系の補色関係による対比の効果が大胆に試された実験的な作品。こうした“色彩の革命”から、マティスは後にフォーヴィスム(野獣派)の画家と呼ばれることになる。

 ただ、筆者個人的にはマティスをフォーヴィスム(野獣派)の画家として語ることに違和感がある。マティスはフォーヴィスムの特徴とされる荒々しいタッチや、激しく強烈な色彩を求めたわけではない。画面の総合的な調和を目指して、独自性のある配色を実践したのだ。マティスは知的でクール。野獣という言葉がもつイメージとはかけ離れている。

 イタリア人モデルのロレットを描いた1916年の《ロレットの頭部、緑色の背景》も印象に残る作品。緑の背景が、何とも効いている。ロレットの黒い髪、眉、瞳、ドレスを、背景の緑が見事に引き立てているのだ。マティスはロレットを気に入り、複数の作品を残した。この作品とは逆に、ロレットが緑色のローブを着用し、背景を黒で塗り込めた作品もある。試行を繰り返しながら、マティスは色彩のセンスを磨いていったのだろう。