緊張しない男・黒田朝日
一方、花の2区で区間賞を獲得した黒田も独自のスタイルを持っている。腕時計はつけずに出走。タイムは気にせず、自分の感覚を大切にしているのだ。
太田は1学年下の黒田の強さを、「何も考えてないところです」というが、感覚的に100%以上のパフォーマンスを発揮する術を知っているのかもしれない。
黒田は太田以上に本番でしっかりと走る選手だからだ。特に今季は駅伝だけでなく、トラックも外すことなく好走を連発してきた。
「トラックのスピードは僕の方があると思うんですけど、練習の消化率は太田さんと同じくらいですかね。僕自身、普段の練習で、レースみたいな走りができるかと言われるとそうではありません。箱根の後も、原晋監督から『なんでそんなに走れるん』と不思議がられたぐらいですから(笑)」
今回の箱根駅伝は初出場で、エース区間の2区に抜擢された。相当、プレッシャーがかかる場面だが、黒田はさほど緊張しなかったという。
「僕自身、あまり緊張はしないタイプなんです。どんなときでも基本的には自分のことしか見えていません。性格的なものも大きいかもしれませんが、その時々の環境や空気感に自分が左右されることはあまりないので、レースの安定感は自信がありますね」
ちなみに人生で一番緊張したのは、「高校入試の面接」だという。
では、プレッシャーに弱い人は、どのように対応すればいいのか。
「緊張するときは、自分のなかでうまくいきそうな予感があるからだと思うので、緊張しているんだったら、うまくいく証拠だと考えればいいのかなと思います」
緊張を〝ワクワク感〟だとポジティブにとらえると、人生が変わるかもしれない。
次なる野望は対照的
箱根駅伝の大活躍でますます注目を浴びることになる青学大のWエース。今後はどこに向かっていくのか。
太田は今春のマラソン挑戦を見送ったが、1年後にはマラソンで鮮烈デビューを飾るつもりでいる。
「来年は東京で日本人トップを目指したいですね。今年も箱根直後の故障がなければ、(出場予定だった)大阪で2時間6分前後は狙えたかなと思っています。これから1年練習を積んでいけば、もっと上げていける。2時間5分半を狙えるレベルに持っていきたいと思っています」
来年の2025年9月には東京で世界選手権が開催される。箱根駅伝のスター選手が自国大会に出場することになれば、世間は黙っていない。周囲が騒げば騒ぐほど、太田のモチベーションは上がっていく。
将来的の目標を訪ねると、「オリンピックの金メダルです!」と大胆発言が飛び出した。
「世界トップは2分台、1分台が当たり前です。それぐらいで走らないと世界では戦えません。正直、日本のマラソン界はレベルが低いと思うので、その常識を変えていきたい」
箱根駅伝のパフォーマンスと、大舞台での強さを考えると、太田の言葉は決してビッグマウスとはいえないかもしれない。
デッカイ夢を語った太田に対して、黒田の目標設定は真逆ともいえるものだった。
「新年度はトラック、駅伝とも今季以上の走りを念頭に置いてやろうかなと思っています。トラックだと目指すは自己ベストですけど、具体的なタイムはありません。昨年のトラックシーズンは3000m障害をメインにしていました。でも来季はそのときに一番走っている種目がメインになるんですかね。特に世界を目指すというのは今の自分にはなくて、その時々でやりたいように競技ができれば、それでいいのかなと思っています」
お祭り男の太田に、自然体の黒田。キャラが異なる青学大のWエースは、2024年度も学生駅伝の〝主役〟を担うことになりそうだ。