「応援したくなるよねって思われる選手にならないと」
「(宇野)昌磨が記者さんに『全日本出場は13回目』と言われて、『13歳の子がいるんですよね』みたいなことを答えたそうです。それを知ったとき、13年前って恋奈ちゃんが生まれた年なんだと思って、13歳の全日本はこうだったな、という気持ちを大事にしてほしいなと思いました」
再び上薗についてこう語る。
「素直で、そして真面目なんですね。すごい疲れてるんだろうなと感じるときがありますが、それでもやらなきゃ、となってしまうので、オンとオフを切り替えることの大切さを伝えています。『今日はこれくらいでやめておこうね』と言うとちゃんとやめられるようになってきています。あの子は今、吸収がすごい時期で、そういうのもすべて勉強中です」
全日本選手権にはもう1人の教え子、河辺愛菜も出場していた。北京五輪に出場した河辺はLYS創設とともに以前の所属クラブから移ってきたが、全日本はショートプログラムで5位につけながらフリーで18位、総合13位の成績で終えた。そのフリーのあと、「どこを改善したらいいのか、分からずにいて」と整理がつかないようだった。
樋口は言う。
「3年くらいかかるのかなと自分では思ったりもしています。恋奈ちゃんはわりと小さい頃からみていたので性格などいろいろなことを考えてアドバイスしたりしていますが、愛菜ちゃんはまだ1年半ちょっとなので『どうなんだろう』と考えながら進めています。
愛菜ちゃんに言っているのは『魅せるスポーツだから、悔しかったら悔しいって落ち込むのは良くないよ。常に見られているのを意識しなきゃ。応援してくれる人が多い方がいいし、全然知らない人にもあの子、応援したくなるよねって思われる選手にならないと』ということ。まだ余裕がないのかな。でも、ずいぶん変わりました。皆さんに、『顔が変わった』『あんな風に笑うんだ』と言われるんです。彼女は彼女のよさで応援されると思うし、時間をかけて取り組んでいきたいですね」
それぞれの教え子に対する、あたたかさを含んだまなざしがあった。
そのまなざしは、今教えている選手に限らなかった。(続く)。
樋口美穂子(ひぐちみほこ) 山田満知子コーチのもとでフィギュアスケーターとして活躍し1981年の全日本ジュニア選手権2位、全日本選手権出場などの成績を残す。二十歳で引退し、山田のもとでコーチとなる。2022年世界選手権で優勝しオリンピックでも2大会連続メダルを獲得した宇野昌磨をはじめ数々の選手を育てた。2022年3月、「LYSフィギュアスケートクラブ」を創設、指導にあたっている。振り付けも数多く手がけている。