クラウン スポーツは美形だ

 今回は、このうちのスポーツとセダンに試乗したが、まずはスポーツの印象について報告し、セダンについては別の機会にご紹介することとしたい。

 クラウン・スポーツと対峙してまず心を奪われるのは、その美しいデザインである。

 トヨタはクラウン・クロスオーバーやプリウス以来、ボディパネルのキャラクターライン(プレスライン)や実用的な必然性の薄い加飾を徹底的に排除する新しいデザイン言語を採用し、ボディパネルのふくよかな抑揚で美しさを表現するようになっているが、スポーツではクロスオーバーよりもホイールベースを70mm短縮するなどして凝縮したプロポーションを作り出し、軽快な走りを予感させるスタイリングに仕上げている。そしてリアフェンダー付近に筋肉を思わせる張り出しを設けて力強さを表現したが、そうしたデザイン手法のひとつひとつが全体的なフォルムのなかに無理なく溶け込んでいて、実に魅力的に見える。その美しさは、日本車のなかで1、2を争うほどだ。

走りについても文句ナシ

 いっぽうの足回りは、SUVでありながらスポーツを名乗るだけあって、なかなか引き締まった味付けに設定されている。おかげで、どんな車速域でもしっかりとフラットな姿勢を保ってくれるが、ゴツゴツとした印象は薄く、乗り心地としては文句の付けどころがなかった。こうした質の高い乗り心地には、足回りに衝撃が加わっても、それによって引き起こされるボディの振動を急速に収束させるダンピング性能の高さが貢献しているに違いない。

 スポーツのパワートレインにはハイブリッドとプラグインハイブリッド(PHEV)の2タイプが用意されることは前述のとおりだが、PHEVの発売は2ヶ月遅れになるとのことで、今回はハイブリッドモデルにのみ試乗できた。

 遊星ギアを用いてエンジンとモーターの出力を合成し、そのパワーを駆動輪に伝達するTHS方式は、アクセルペダルを踏み込んでも加速感の立ち上がりが鈍く、これをもってして「ラバーバンドフィール(ゴムが伸び縮みするように節度がない様子のこと)」と揶揄されることが少なくなかったが、スポーツのハイブリッドモデルに関していえば、私はその加速感にまったく不満を覚えなかった。また、エンジン回転数が高まったときに安っぽいノイズを響かせないことにも好印象を抱いた。

 ハンドリングは、微妙な操舵にもよく反応するほか、あいまいなところが少なく、こちらも好印象。とりわけコーナーリング中に路面の凹凸と出くわしても、4輪が丁寧に路面を捉え続けるために不安定な姿勢に陥らなかった点も高く評価したい。

敢えて言うなら……

 そんなクラウン・スポーツの弱点を敢えて指摘するなら、後席の居住空間と、リアバンパー付近に設けられた不自然な“盛り上がり”くらいだろう。もっとも、狭いといっても後席にはオトナが無理なく腰掛けられるのだから、このクルマのコンセプトを考えれば十分に容認できる範囲。いっぽうのリアバンパー付近の盛り上がりは、一部輸出先のクラッシュテストを通過させるためにはどうしても必要だったというのだからやむを得まい。

 しかも価格は590万円で、同クラスのドイツ車に比べれば4〜5割ほど安い。このため、輸入車から乗り換えるユーザーがかなりの比率に上っているそうだが、それも、このクルマの実力を考えれば無理からぬことだろう。