名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ロングセラーとヘリテージをつむぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登

ハリウッドスターの靴から世界的メゾンへ

 イタリアン・ラグジュアリーを代表する“伝説”であるフェラガモ。創業者のサルヴァトーレ・フェラガモは 1898 年、イタリア・カンパニア州のボニートに生まれ、 13 歳で自身の店を構えた。

 15歳の時にブーツ職人である兄を頼って渡米。兄とともに映画の小道具である靴を作り始め、映画関係者の間で評判となる。

 その後に開設した「ハリウッドブーツショップ」での成功を受け帰国。満を持してフィレンツェに興した工房が、現在のフェラガモブランドにおける起点となっているのだ。

 ハリウッドではイングリッド・バーグマンやマリリン・モンロー、それにゲーリー・クーパーなどの名優を次々に虜にしたサルヴァトーレ。当時のアメリカ靴とは異なる洗練されたラテン的な美観に加え、機能的にも一歩抜きん出ていたことにポイントがある。進歩的な創業者は南カリフォルニア大学で人体解剖学を習得し、足に負担の掛からない機能的な靴型を作り出していたという。

 1960年代からはトータルブランドとしての展開を押し進めたフェラガモ。しかし、サルヴァトーレが目指した「履きやすい靴」の追求は、21世紀の現在も続けられている。2022年には新たなクリエイティブ・ディレクター、英国人のマクシミリアン・デイヴィスを招聘。今季、早くも若きディレクターによる新時代の一足をリリースし、多いに注目を集めているのだ。