この経験があったからこそ

2022年12月24日、全日本選手権でフリースケーティングを演じる坂本花織 写真=アフロスポーツ

 強い悔いが残ったのは、試合までの過程が充実していたことにあった。

 世界選手権へ向けて振付師のブノワ・リショーにブラッシュアップしてもらい、プログラムに磨きをかけた。大会への取り組みはそれだけではなかった。

「2週間前から、(コーチの1人である)グレアム(充子)先生のお家に居候をさせてもらって、体を絞り込んで」

 練習量も増やし、万全を期したはずだった。いや、準備は整っていた。

「もう完璧な状態で試合に行ったのにもかかわらず、この結果か、というのがとても悔しくて。そのあと、やけ食いがすごかったです」

 全力を注いだ世界選手権が終わるとその反動もあり、翌シーズンこそ成績は伸び悩んだが、その反省をいかして復調したうえに、進化を続けてきた。

 そして世界のトップに立つまでに至った今日がある。

 数々の栄冠を手にしてきた。それでもあの世界選手権は忘れていない。

 あのフリーの当日の夜、眠りについたあと、徐々に落ち着いていき、いつもの日常に戻った感じがしたという。

 そこから時間も経った。でも・・・。

「やっぱり『あのとき、こうだったな』というのは、頭の片隅にはまだ全然残っている感じです」

 だからこそ、4年前と同じさいたまスーパーアリーナで開催される世界選手権を前に、こう語る。

「それを完全に塗り替えるのは、やっぱり今回だと思います。やっぱりいい記憶に上書き保存したいって思います」

 全日本選手権の後も精力的に試合を重ねながら準備を進めてきた。

 優勝すれば、世界選手権では男女を通じて日本史上初の連覇となる。

 坂本花織は地に足をつけて、揺らぐことなくしっかり見据えている。