江戸時代の鎖国政策に準えて「特区戦略」を「出島戦略」と呼ぶこともある

 DXを推進する上でさまざまな組織や制度の在り方が模索されているが、多くの企業ではいまだ最適解を見いだせていないのが現状だ。特に大手企業や伝統的ビジネスを展開してきた企業では、既存の組織体制、制度、ルール、文化などが推進の足かせになることも多い。

 そうした中、その解決策として、これらの障壁を取り払い、DXの取り組みを加速させる「特区環境」の構築への関心が高まってきている。

 この背景には、大多数の企業はDXが順風満帆に進んでいるとは見ておらず、さまざまな阻害要因から思うようにDXを推進できていないという実情がある。

 DXを経営課題と捉え、全社的な組織体制を構築し、推進する企業は多く見られるようになったが、ITRが最近、実施した調査において、最も多くの回答が見られたのは「エンジニアやスキルの不足」であった(図1/このテーマについては、本DX講座(4)「デジタルネイティブ・カンパニーを見据えた人材育成を進めよう」で取り上げているので、参考にしていただきたい)。

※本DX講座(4)「デジタルネイティブ・カンパニーを見据えた人材育成を進めよう」はこちら

 そこで、現在、多くの企業が人材・スキル不足を喫緊課題と捉えて、デジタル人材育成に注力しているわけだ。

図1 DXプロジェクト推進の阻害要因 出典:ITR「デジタル&メタバース利用動向調査」(2022年8月)
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多くの企業が「社内制度や組織の壁」にぶつかっている

 一方、次なる推進の阻害要因として示されるのが「社内制度や組織の壁」である。特に大企業においては、部門間や上下間の風通しが良くなく、組織が硬直化しやすいことが多い。また、伝統的ビジネスを手掛けてきた企業では、変化をよしとせず、何か新しいことを始めようとすると往々にして抵抗勢力が付きまとう。組織構造が官僚的であれば、ルールを逸脱できない、失敗を許さないといったカルチャーも生まれやすい。

 DXを推進しようとする企業では、多かれ少なかれ、このような既存の組織、制度、ルール、文化などが足かせになっており、これらを打破する組織体制の在り方として、「特区戦略」が注目されているのである。

 「特区」とは、特別区域のことであり、国家戦略特区、経済特区などの言葉があるように、「特別あるいは試行的に、公的な規制の枠外での活動を認められる区域」のこと。行政上の特区は、民間事業者や地方公共団体による経済活動や事業を活性化させたり、新たな産業を創出したりするために、国が行う規制を緩和するなどの特例措置が適用される特定の地域を指す。そのため、江戸時代の鎖国政策に準えて「特区戦略」を「出島戦略」と呼ぶこともある。

 企業における特区には明確な定義はないが、在来の社内制度や組織カルチャーから切り離された自由裁量度の高い組織と捉えればよいだろう。