1.シャイ・ダイ期:スローンレンジャーが黒い羊に

1981年5月のダイアナ妃。ロンドンのベルグレービアにある「インカ」で購入したというフェアアイルセーターには、ラマの模様が描かれる。子供っぽさすれすれのセーターにハンターのブーツをあわせたカントリールックは、元祖コテージ・コア(カントリーへの憧れを表現するスタイル)として今も参照される 写真=Shutterstock/アフロ

 婚約時、保育士をしていた時期から結婚当初にかけての時期。ハート柄の透けるスカートや、ハロッズで選んだ生地を使って作った素朴な印象のドレス、カントリースタイルとしての羊柄のセーターなど、ダイアナ妃のファッションがまだ垢抜けない時期である。

 とはいえ、この時期にダイアナはすでに装いでメッセージを発していた。結婚当初にカントリーで着たセーターのなかに、白い羊の群れに一匹だけ黒い羊が混じる柄のものがあった。子羊は生贄のメタファーであるばかりか、黒い羊とは「厄介者」を意味する。二度目に同じ柄に見えるセーターを着た時には、黒い羊が別の方向を向いていたことが指摘されている。

「黒い羊」に「王室から厄介者扱いされる自分」という意味を読むのはやり過ぎなのかどうかはさておき、この時期のカントリースタイルは「コテージ・コア」として、現代も参照され続けている。

1981年2月24日、婚約時のダイアナ妃。サファイアの指輪はキャサリン妃に受け継がれ、キャサリン妃はウィリアム王子(当時)との婚約発表時にこの同じリングをつけている 写真=アフロ

 婚約時代のダイアナ妃がトレンドの火付け役になったもののなかでファッション史に刻まれることになったのが、「スローンレンジャー」スタイルである。スローンレンジャーは、ロンドンのスローン・スクエアとアメリカのドラマ「ローン・レンジャー」を掛け合わせた造語で、ロンドンでおしゃれな人が出没する頻度が高いスローン・スクエア近辺を闊歩する良家の子女およびその信奉者を指す。

 ちなみに2010年前後のキャサリン妃は、やはりスローン地区の良家の子女スタイルであったが、ダイアナ妃時代と区別すべく、「スローニー」と呼ばれている。スローンの系譜は、ブラウス、カーディガン、パンツ、チェックスカート、ローヒールやブーツなど定番アイテムをセンスよく組み合わせて構成されるため、万人受けする保守的で上品なカジュアルスタイルのお手本として、根強い支持がある。