音楽業界へのリスペクトの欠落

 一方で音楽については、フィギュアスケート側の努力も欠かせないと語る。

「フィギュアスケート業界に徹底的に欠けているのは音楽業界へのリスペクトです。例えばクレジットですね。誰が作曲したのか、だれが演奏したのか、ほとんど表記することがありません。そういうところにも音楽家へのリスペクトが足りないと感じます。「人のものをお借りしている」ということを意識しなければならないと思います」

 町田が危惧するのは、たいていの場合、プログラムに曲を使用するにあたって、権利者に許諾を得ていないし、ましてや演技時間に合わせてどのように編集するのかの承諾もとっていない現状を鑑みてのことだ。

 危惧を現実とする出来事があった。北京五輪に出場したアメリカのペア、アレクサ・クニエリム・ブランドン・フレージャーの使用した『朝日が当たる家』の制作者から無断使用について訴訟を起こされたことだ。

「この訴訟が『あ、気に入らない音楽利用をされたら差し止めていいんだ』という気づきになって、音楽家側からの類似の訴訟が、今後頻発する可能性があります。そうなると競技運営はままなりません。やはりこれは統括組織の仕事になってくると思います。そのためにも著作権とは何かといったことや、著作権を遵守した音楽利用を啓発しなければならないのです。知財法務の研究者として私も、呼ばれればどこにでも出向いてお話をする用意はあります」

 お互いに快い、心地よい曲の使用のあり方が大切だと考えるからこそ、リスペクトの必要性を訴える。

 それを広める役割を、プロの立場にあるスケーターに期待したいとして、こう語る。

「フィギュアスケートは音楽とともに発展してきたわけですから、音楽にどう応えられるかが本質になっている文化です。そういう意味で音楽を深く理解し、音楽家への敬意を持って、責任を持って作品を創る。それを果たすのがプロスケーターであるべきだと思っています。競技者は未成年の選手が多かったりもしますし、なかなか難しい。でもプロは自立をしてプロフェッショナルとして演技をするわけですから、そこまでの責任が求められます。それを果たそうとすればおのずと良い作品は生まれると思います」