高品質なスパークリングワインを安定的に造るのは簡単なことではない。広い土地と、その土地をマネージメントするノウハウが必要であり、ワインを長年保管できる広い場所とワインがお金に変わるまでの間を少なくとも商売がペースに乗るまでは持たせられる資金力が要るからだ。
これを覚悟の上で、当たるか当たらないかが分からないワインに投資し、見事成功した産地、フランチャコルタ。
なぜ、フランチャコルタはフランチャコルタになったのか? その謎を追うフランチャコルタ現地取材記の2回目は、フランチャコルタの成り立ちと、その有り様を、ハッキリと示す、フランチャコルタ最大手ワイナリー『ベラヴィスタ』のストーリー。
ベラヴィスタ。フランチャコルタの発想法
『ベラヴィスタ』というワイナリーの創設者、ヴィットリオ・モレッティさんは、建築業で成功した実業家だ。1977年に自分の家の横にワイナリーを造ったのが、彼のワイナリー『ベラヴィスタ』の原点。このときは自分と自分の客人用にワインを造っていた。
そういうプライベートなワインだから商業的採算は度外視。そもそも1981年まで販売していなかった。畑も2-3haに過ぎず、生産量は年間数千本。
1981年に醸造家マッティア・ヴェッツォーラが参加し、ベラヴィスタはフランチャコルタ販売を開始する。世に出るとイタリア富豪の趣味のワインの妥協を許さぬ高品質は世界的に知れ渡り、評価はぐんぐん高まった。
結局、ワインで成功して、現在、210ha、年間160万本を生み出す、最大手にまで成長している。
最近の話題は、長年、シャンパーニュ『ドン ペリニヨン』の醸造最高責任者を務めていたリシャール・ジョフロワがコンサルタントとして参加したこと。ベラヴィスタのワイン造りに関わって「世界最高峰のワインのひとつであると考えて問題なかろう」と太鼓判を押したとか。
呆れるほどに手づくりワイン
ベラヴィスタのワイン造りは、ヴィットリオ・モレッティさんが個人的に造っていたころから現在まで、その基本姿勢を変えていない。
ベラヴィスタのワイン造りは他所では見かけないほどに凝っている。正直なところ「よくこの規模でそこまでやるな……」と、呆れてしまう。
例えば畑は、いまも一部では馬で耕作するような、化学物質を使わない農業を実践している。ブドウは、昔ながらの圧搾機を使って、搾汁しているものがある。
果汁は、破砕したブドウから自然に流れ出るフリーラン、一番搾り、2番搾り、それ以外に分け、2番搾りまでを使用する。それ以外の果汁は売ってしまう。
その果汁を10℃まで冷やし、酸素を大量に与えて、ワインになる前の段階で酸化のネガティブな要素を落としてしまう「ハイパーオキシデーション」という手法を実施。
そして、発酵をボディのしっかりした果汁は樽で、エレガントなものはステンレスでと分けて行い、発酵後、1週間程度待って、樽かステンレスにて熟成する。
面白いのは、最初にワインを酸化から守るハイパーオキシデーションを行いながら、酸化熟成を期待して樽熟成をしているところで、この樽、というのが「ワインに樽香をつけたくない」という理由から、10年から30年利用した古樽のみを使っている。
2-3年程度使用しただけの中途半端な古樽なら、新樽よりも安いものだが、このくらい古い樽になると、メンテナンスもメーカー送りであり、毎年、100樽程度をフランスまで送っているというから、おそらく、新樽を買って入れ替えていたほうが安くあがるはず。
そんな手塩にかけたワインを春まで待って、4月にクリーンなベースワインが出来上がる。この時点で、およそ120種類のワインが存在し、そのほか、30くらいのリザーブワインを組み合わせて7種類のフランチャコルタを造る。
120種類のワインを造る時点ではどれが最量産の『アルマ』用にするか(販売価格は5000円ほど)、最高級の『リゼルヴァ ヴィットリオ・モレッティ 』にするか(販売価格は2万円ほど)は決定していない。つまり、全部最高級品のワインを造るつもりで120種のワインを造っている。これをヴィットリオ・モレッティ氏はこう表現する。
「『リゼルヴァ ヴィットリオ・モレッティ』はたしかに高いワインですが、うちのワインはどれも、基本的な発想は同じです。どこそこの価値を目指した、とか、こういう価値を目指したいとか、そういうのはありません。」
「ワイン造りは目標があってやるものではありませんから。自分の畑から最大限の特徴を引き出す。すべて違う畑です。それぞれの畑で最良の仕事をして、最高の表現のワインを造る。だってそうでしょう? パワフルなブドウしか採れない畑で、エレガントなワインが造りたい、なんていっても、不毛です!」