結局、フランチャコルタってどういうワインですか?

こんなにやって、採算がとれるのか? ビジネスになるのか? と不安になるけれど、ベラヴィスタはこれで成功しているのだ。無用の心配なのだろう。

モレッテッィさんは、そろそろお昼だから、と運営するホテル『ラルベレータ』併設のレストラン『LeoneFelice Vista Lago』に取材陣を招待してくれた。

『L'Albereta』 ルレ・エ・シャトーの高級ホテル

ここで僕は「フランチャコルタってどういうワインですか? 」とストレートに聞いてみた。

ベラヴィスタの成長を支えた醸造家、マッティア・ヴェッツォーラは2021年末で引退した。現在は、ヴィットリオの娘、フランチェスカ・モレッティほか、4人醸造家がその哲学を受け継いでいる。質問した相手はその4人の醸造家のひとり、アレッサンドロ・マリネッロさんだ。

「フランチャコルタの特徴ですか? 複雑だけれど陽気で、どんな食にも合うのがフランチャコルタ! 情熱が生み出すワインです。」

アレッサンドロ・マリネッロ。本人によると「僕は33歳だから、この業界ではまだ若いですよね? ワインは経験は重要で、自分が造ったワインでも、結果がわかるのは、5年、6年後ということもあるでしょう? 僕はまだワイン造りを始めて8年目なんです。最初はピエモンテで、ネッビオーロなんかを相手にしていました。カリフォルニアの『ポール・ホッブス』でも修行をしていましたよ。そのくらいのころに、スパークリングワインに惹かれるようになていったんです。」

なんとも明快な答えではないか。

「じゃあ、もっと、ドラマチックで大げさなワインを造ろう、みたいなつもりはないんですか?」 と聞いてみると

「このロゼなんか、最高でしょう? 僕はピノ・ノワールが好きで、これは40%がピノ・ノワール。肉料理にも合いますよね。クリオマセレーションでいい色が出ている!」

と、予想とはちょっと違う答えが返ってきた。

とはいえ、たしかにおっしゃる通り。お料理とともに味わった2017年のロゼは最高だった。

ベラヴィスタ『フランチャコルタ・ロゼ』 2017年ヴィンテージ。全生産量の約3%しか造られないという稀少なロゼ。

ピノ・ノワールならではの旨味と美しい酸味は本当に見事。精密でありながらも、優しい。

今年は日照り続きのフランチャコルタ。このときもかなり暑くて、昼食はテラスで食べていたから、冷えたロゼもすぐに温まってきたのだけれど、それでバランスが崩れてしまう、ということはなかった。とてつもない情報量を持ちながら、そこに余裕がある。粒ぞろいという言葉があるけれど、大量の粒がみっちりつまっているのではなく、ひとつひとつの粒の間に意図的な空隙を設けている。それゆえに懐が深く、環境の変化や食との相性に寛容。そんなワインだとおもう。たしかに「陽気でどんな食にも合う」を地で行っていた……

ベラヴィスタでの経験は、控えめに言っても「生きててよかった」くらいの水準だった。にもかかわらず、僕の謎はさらに深まった。

なぜ、アレッサンドロのような若者が、ここでワインを造るのか? 彼のような人物が造るワイン、シャンパーニュのレジェンドも認める世界最高峰のワインが、なぜ、他の高峰に比してこれほどあっけらかんとしているのか? その疑問はいよいよ、次回、解決することになる。

つづく