文=酒井政人 

2022年5月22日、関東インカレ男子5000m決勝、13分42秒35で優勝した三浦龍司 写真=共同通信社

前半シーズンで最も重要視される大会

 箱根駅伝を目指すチームにとって5月の関東インカレは前半シーズンで最も重要視される大会だ。1500mや3000m障害に出場する選手もいるが、5000m、10000m、ハーフの3種目は学生駅伝に直結する。順位重視の戦いは〝強さ〟が求められ、ライバル校との実力差もわかるからだ。

 関東インカレの男子は1部(順大、東洋大、中大大など16校)と2部(青学大、駒大など)にわかれてレースが行われる。1部で強烈なインパクトを残したのが三浦龍司(順大3)だ。男子3000m障害で日本記録を持ち、昨年の東京五輪で7位入賞を果たした男が5000mで驚異的なキックを披露することになる。

  三浦は走る前から〝存在感〟を漂わせていた。初日の10000mは残り1周の勝負になり、先輩の伊豫田達弥(順大4)が力強いスパートを放った。グングン加速して、ライバルを一気に突き放す。ラスト1周を55秒で駆け上がり、28分42秒85で制した。2位は井川龍人(早大4)で28分44秒82、3位は児玉悠輔(東洋大4)で28分45秒74だった。

「途中からスローペースになるとわかったので、できるだけ前に出ずに、力をためることを考えました。4月から三浦と一緒にスピード練習をしていて、敵わないなりにしっかりやれているので走れたのかな」

 10000mで圧巻のラストを見せた伊豫田が「敵わない」と表現した三浦のスピードはどれぐらいの破壊力があるのか。

 

三浦のスピードはどんどん進化している

 三浦は2日目の5000m予選に登場。タイムに関係なく10着までは決勝進出となるが、前日の伊豫田を意識したという三浦はラスト1周を57秒まで引き上げる。「6~7割」という走りながら13分51秒90でトップ通過。ラスト1周で2着以下の選手を7秒近くも引き離した。

 2日後の決勝は誰もが三浦のラストを警戒するなか、自らレースを誘導した。しかし、レースは意外な展開になる。初日の10000mで周回遅れに沈んだ松永怜(法大3)が残り2周を前に飛び出したのだ。

 伏兵が25mほどのリードを奪うが、三浦はすぐに切り替えることはしない。徐々にペースを上げていき、残り1周でスパート。松永に急接近すると、バックストレートで悠々と逆転した。そして後続を大きく引き離して、13分42秒35で完勝。2位はムサンガ・ゴッドフリー(駿河台大1)で13分47秒69、3位は中野翔太(中大3)で13分48秒01だった。

「予選のレースを再現するプランだったので有言実行できたかなと思います。(松永は)さらに上がることはないと判断したので、確信はなかったですけど、ある程度射程距離に入っていたかなと思いました。ラストのスピードは自信をつけていましたし、刺せなきゃ8点は持って帰れないので、意地でも抜くつもりでした」

 三浦は残り1周を54秒で突っ走り、後続に5秒差をつけたことになる。なおラスト800mは1分57秒で走破した計算だ(参考までに10000mで圧勝した伊豫田のラスト800mは2分03秒だった)。今回の関東インカレは3年ぶりの有観客だったこともあり、三浦のスパートにどよめきが起きた。

 ゴール後はいつも通りの涼しい顔をしていた三浦だが、「脚も腕もパンパンです」と苦笑い。今季は1500mでも日本歴代2位の3分36秒59をマークするなど、三浦のスピードはどんどん進化している。

「大学に来て一番伸びたと思うのは、キレというかスピードの部分です。ギアの段数が増えたというか、どんどんレベルアップできていると思います。レースが動いた瞬間にしっかり反応できる瞬発力は、明らかに高校時代よりついていますね」

 三浦のラストを見て、筆者は2010年代にトラックで最強を誇ったモハメド・ファラー(英国)を思い出した。ファラーはラスト1周を52~53秒台で走るキック力を武器に、五輪と世界選手権の長距離種目(5000mと10000m)で10個の金メダルを獲得している。ファラーほどではないが、三浦のラストスパートはこれまで見てきた日本人選手のなかでは異次元の領域にある。

2016年リオデジャネイロオリンピック、男子5000mで先頭を走るモハメド・ファラー。この種目と10000mで金メダルを獲得。写真=Press Association/アフロ

「3000m障害もゲームメイクをする必要がありますし、どこかで変化をつけるのは自分でできた方がいい。それを踏まえても今日のレースは良かったと思います」

 三浦は6月9~12日に行われる日本選手権は3000m障害に出場予定。今季は終盤のスパート力でライバルをねじ伏せてきたが、メイン種目でどんなレースを見せるのか。

 

大躍進の東洋大

 チーム別で見ると、今年は東洋大が大躍進した。昨年は長距離種目が無得点に終わり、駅伝シーズンも波に乗ることができなかった。全日本大学駅伝は10位に沈み、箱根駅伝は目標のトップスリーに2秒届かなかった。

 しかし、今年は箱根駅伝が終わった直後から関東インカレを意識してきたという。初日の10000mで児玉悠輔(4年)が3位、松山和希(3年)が6位、佐藤真優(3年)が7位。児玉が設楽悠太以来9年ぶりの表彰台に立つと、トリプル入賞も達成した。

 10000mの活躍に刺激を受けて、最終日のハーフマラソンも大活躍。梅崎蓮(2年)が1時間2分41秒で2位に入ると、木本大地(4年)が5位、前田義弘(4年)が8位。3人とも自己ベストを更新して、2種目目となるトリプル入賞を成し遂げた。さらに1500mで及川瑠音(4年)が4位、5000mでも九嶋恵舜(3年)が4位に食い込み、長距離勢は大量33点をゲットした。

 チーム最上位となった梅崎は、「10000mの全員入賞に刺激をもらいました。自分の2位には驚いていますが、ハーフでも3人入賞を目指そうと話していたので、達成できて良かったです。チームは箱根駅伝の総合優勝を目標に掲げているので、夏も走り込んで、一丸となって優勝を狙っていきたいです」と力強かった。

 なお東洋大は6月19日の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会に14年ぶりに参戦する。酒井俊幸監督は「トップで通過したい」と話しており、梅雨時期の過酷な戦いでも鉄紺軍団の総合力を見せつけるつもりだ。