文=酒井政人 

2022年1月2日、第98回箱根駅伝、5区で区間賞を獲得した帝京大の細谷翔馬(右)はアディダスを着用 写真=アフロ

ナイキの人気は変わらずだが・・・

 正月に行われる箱根駅伝。ナイキが厚底シューズを登場させてから、学生ランナーたちの足元も注目を浴びるようになった。前回はナイキの着用率が95.7%に到達したが、今回はどうなったのか。出場者210人の着用ブランドを見てみよう(目視でのデータ。カッコ内は前回の人数)。

ナイキ154人(←201人)
アディダス28人(←4人)
アシックス24人(←0人)
ミズノ2人(←3人)
ニューバランス1人(←1人)
プーマ1人(←0人)

 国内ではブルックス、ホカオネオネ、オン、アンダーアーマー、リーボック、サッカニー、メディフォーム、ニュートン、ヨネックスなどのスポーツメーカーがランニングシューズを販売しているが、箱根駅伝ランナーに選ばれたのは6ブランドしかない。

 そのなかで王者・ナイキは今季の学生駅伝も首位を〝独走〟してきた。10月10日の出雲駅伝は出場120人中102人(85%)、11月7日の全日本大学駅伝は出場216人中177人(81.9%)、今回の箱根駅伝は210人中154人(74%)。ダントツナンバー1は変わらないが、シェア率を徐々に下げている。

 

大躍進の2つのブランド

 一方で大躍進を遂げているのが、2つの〝Aブランド〟。ナイキの国際的なライバルであるアディダスと、国内スポーツ界の雄といえるアシックスだ。

 アディダスは前年4人から28人。目立つところでいうと、前回2区で区間新記録の快走を見せたイェゴン・ヴィンセント(東京国際大3)と同5区で区間賞を獲得した細谷翔馬(帝京大4)がナイキから履き替えている。ヴィンセントは左足に痛みが出たこともあり、2区で区間5位に終わったが、細谷は「山の神」と呼ばれた柏原竜二(東洋大OB)以来となる〝2年連続の5区区間賞〟を達成した。

 また3区で区間歴代3位の快走でトップを奪った太田蒼生(青学大1)も着用。ヴィンセントと太田が『アディゼロ アディオス PRO 2』(税込26,000円)、細谷は『アディゼロ タクミ セン 8』(税込20,000円)と思われるモデルを履いていた。いずれも5本指カーボン(もしくはグラスファイバー)が搭載されている厚底シューズだ。

左から、2区を走るイエゴン・ヴィンセント(東京国際大)、3区を走る太田蒼生(青学大) 写真=アフロ、松尾/アフロスポーツ/日本スポーツプレス協会

 アシックスはナイキの厚底シューズが登場する直前の2017年大会で最多67人(31.9%)が着用していたが、その後はシェアが急落。前回はまさかの0人だった。しかし、昨年2月のびわ湖毎日マラソンでアドバイザリースタッフ契約をしている川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)がアシックスの厚底タイプを履いて8年ぶりの自己ベストとなる2時間7分27秒をマークしたことが話題になると、学生ランナーの間でも使用者が増加した。

 ランニングフォームは歩幅を広げることでスピードを上げるストライド型と、脚の回転数によってスピードを上げるピッチ型に分類されるが、アシックスはランナーのタイプに分けて2種類のレースシューズを発売。ストライド型に対応した『METASPEED Sky』とピッチ型に対応した『METASPEED Edge』だ(両モデルとも税込27,500円)。どちらもストライドがより伸びるように設計されており、好評を博している。

 前述した通り、世界的にも有名なスポーツブランドがひしめくなかで、今回の箱根駅伝はナイキ、アディダス、アシックスの3ブランドで全体の98.0%ものシェアを占めていたことになる。

 ミズノは2人しか使用者がいなかったが、4区で区間賞を獲得した嶋津雄大(創価大4)と4年連続で3区を走り、トータル19人抜きを演じた遠藤大地(帝京大4)が着用しており、インパクトを残している。ともに真っ白いシューズだったが、嶋津は(どちらかというと)薄底で、遠藤は厚底とタイプが異なっていた。

左から、3区を走る遠藤大地(帝京大)4区を走る嶋津雄大(創価大)写真=アフロ、日本スポーツプレス協会/アフロスポーツ

 

区間賞を制したのは?

 次は区間賞を見てみよう。

1区 吉居大和(中大2) 1:00:40(区間新)ナイキ
2区 田澤廉(駒大3) 1:06:13 ナイキ
3区 丹所健(東京国際大3)1:00:55 ナイキ
4区 嶋津雄大(創価大4)1:01:08ミズノ
5区 細谷翔馬(帝京大4)1:10:33アディダス
6区 牧瀬圭斗(順大4)58:22 ナイキ
7区 岸本大紀(青学大3)1:02:39 ナイキ
8区 津田将希(順大4) 1:04:29 ナイキ
9区 中村唯翔(青学大3)1:07:15(区間新)ナイキ
10区 中倉啓敦(青学大3)1:07:50(区間新)ナイキ

 シェアを下げたナイキだが、10区間中8区間で区間賞を獲得。気象条件に恵まれたこともあり、1区吉居大和 (中大2)、9区中村唯翔(青学大3)、10区中倉啓敦(青学大3)が区間新記録を打ち立てた。さらに3区丹所健(東京国際大3)も日本人最高記録で走破している。これでナイキが箱根駅伝の全10区間+日本人最高記録すべてを保持したことになった。

 なおナイキは2区で区間賞を獲得した田澤廉 (駒大3)が『ズームX ヴェイパーフライ ネクスト% 2』(税込26,950円)を着用。その他7人の区間賞は前足部にエアが搭載されている『エア ズーム アルファフライ ネクスト%』(税込33,000円)だった。

左から、1区を走る吉居大和(中央大)と、2区を走る田澤廉(駒大) 写真:松尾/アフロスポーツ/日本スポーツプレス協会

 またカーボンプレートを搭載された厚底シューズが主流になったことで、故障者が目立つようになった。そのため各校が最新ギアを味方につけるような取り組みを行っている。今大会、独走Vを果たした青学大・原晋監督は優勝会見でこんなことを話していた。

「近年、故障する部位が変わってきたんです。以前は脚の下。シンスプリント系の故障が多かったんですけど、最近は仙骨やお尻まわりの故障が増えてきた。故障しない身体づくりのひとつとして、アウタートレーニングを取り入れるようになりました」

 シューズの進化によって、トレーニングが変り、ランナーもさらに進化していく。現在の駅伝・マラソン界はそんな好循環になっているようだ