文=松原孝臣
進化したからこその「悔しさ」
数多くの選手の活躍が見られ、成績にとどまらない印象深い演技もあった2021-2022シーズンを振り返ったとき、忘れてならないのは、アイスダンスの村元哉中・髙橋大輔の1年だ。
2人がアイスダンスに挑んで2シーズン目、その進化に誰もが目を見張った。11月のNHK杯では合計179.50点で6位。前年のNHK杯から22点強伸ばしたこの得点は、国際スケート連盟公認における日本歴代最高得点でもあった。翌週のワルシャワ杯ではさらに得点を伸ばし190.16点で2位。
全日本選手権では2位だったが、四大陸選手権では日本アイスダンス初の銀メダルを獲得する。3月には世界選手権に出場、16位の成績を残し、2人はシーズンを終えた。
内容に満足していないことは、試合後の2人の表情にうかがえた。
リズムダンスの『Soran Bushi & Koto』では、終盤のツイズルで髙橋がバランスを崩した。フリーダンス『ラ・バヤデール』でもリフトでうまくいかなかったり、細かなミスがあった。
2人は取材の中で、同じ言葉を口にした。「悔しい」、と。
「しっかり練習してきての結果なので悔しいです」(髙橋)
「これだけ試合を終えて悔しいと思ったのは初めてです」(村元)
2人の言葉には相通じる思いがあったように感じられた。それは自分たちに手ごたえを感じ取っていたからこそ募った悔しさであることだ。
シーズン最後の大会での表情と言葉は、だからあらためて、2人の長足の進化に思いを寄せることになった。アイスダンスに挑むことを発表した2019年の秋、ここまでの成長を予想しえただろうか。期待と楽しみはあっても、シングルとアイスダンスとでは大きく異なる。でもそれを払拭してみせた。
成し遂げたことの価値と意味は、世界選手権の会場を埋めた観客の人々の反応が雄弁に物語っていた。村元と髙橋が登場すると、ひときわ大きな拍手で迎え、演技を終えたあとにはさらに熱のこもった拍手や歓声をおくった。とりわけシングルで日本男子の先駆者たる足跡を残したあとに転向し、世界選手権という舞台に戻ってきた、アイスダンサーとして36歳にして初めてその舞台を踏んだことへの敬意がそこに込められていた。