文=松原孝臣
成績以上の存在感
2021-2022シーズンはいよいよ大詰めを迎え、3月21日には世界選手権がフランス・モンペリエで開幕する。シーズンも終わりを迎えようしている今、この2人を見ていると、まだスタートラインにいるかのような感覚を覚える。世界選手権日本代表、アイスダンスの村元哉中・髙橋大輔だ。そんな感覚にとらわれるのは、ここまでの歩みそのものに理由がある。
2010年バンクーバーオリンピックで銅メダルを獲得、同シーズンの世界選手権で優勝するなどシングルで数々の実績を残した髙橋は2014年秋に一度は競技生活から引退。それから4年、32歳で現役復帰を表明して2シーズン活動したのち、さらに驚きをもたらした。2019年、次のシーズンから村元とともにアイスダンスに挑むことを発表したのだ。
期待とともに注目を集めた。それに応えるように、結成して時間も経っていないことからすれば、期待以上の演技を見せてシーズンを終えた。
でもそれは序章に過ぎなかった。今シーズンは一足飛びに飛躍した、と感じさせるほどの向上を見せたのである。
まずは成績を振り返ってみたい。9月の「レイバー・デイ・インビテーショナル」を経て出場した11月のNHK杯では合計179・50点で6位。前年のNHK杯から22点強伸ばし、国際スケート連盟公認における日本歴代最高得点をマークする。翌週のワルシャワ杯ではさらに得点を伸ばし190・16点で2位となった。驚くべき進化だった。
それは成績のみで示されるものではない。得点でも示された技術の向上を土台にしつつ、リズムダンス、フリーダンスそれぞれで氷上に展開する表現は、成績以上の存在感を放っていた。
全日本選手権こそ2位となり、結果、北京オリンピック代表を逃すことになった。それに対して、「結果を聞いた瞬間は悔しかったですけど」(髙橋)、「選考発表のときは悔しい気持ちでいっぱいでした」(村元)と悔しさを率直に示した。
悔しさを覚えたことは、裏を返せば、オリンピック代表が現実のものとして見えるところまでたどり着いていたからだ。結成からの時間を考えればやはり、驚嘆に値する。
2人は、悔しい、というところにとどまっていなかった。