2021年3月14日にカップル結成を発表した高浪歩未(たかなみあゆみ)、西山真瑚(にしやましんご)組。前々回、前回のインタビューで結成の経緯や目標を話してくれた二人が昨年の全日本選手権に出場。若々しく明るい演技を見せてくれた彼らに、これまでの練習や大会でのこと、4年後の冬季オリンピックに向けたい意気込みを伺いました。
文=松原孝臣 写真=積紫乃
全日本選手権で伸びやかな演技を披露
その演技に、会場が明るい色に染められたようだった。
2021年12月25日、全日本選手権アイスダンス・フリーダンス。プログラムを滑り終えた瞬間、西山真瑚は右腕を振り下ろし、高浪歩未は笑みを浮かべた。
3位で表彰台に上がることにつながったその演技を、西山はこう振り返る。
「練習にはないくらい、いい出来でした。手拍子やお客さんの熱気、会場の雰囲気がいいエネルギーになったのかなと思います」
高浪がうなづく。
「私自身もそう思っていて、お客さんがいっぱいいて拍手とかたくさんあって、だから出し切れたのかなと思います」
昨年3月にカップルを結成して臨んだシニアデビューシーズン。リズムダンスの『Daydreamin’/ I Need You』では前半の滑らかな滑りと曲のかわった後半には弾むような踊りを、フリーダンス『パリのアメリカ人』では序盤から手拍子や拍手を呼ぶ躍動的な踊りを見せた。共通していたのは、大会時の年齢が高浪は20歳、西山が19歳という2人ならではの若々しくも明るさに満ちた演技だったこと。それは高浪と西山が持つ色合いをたしかな印象とともに伝えた。
全日本選手権はスケーターにとって重みのある舞台だ。しかも昨年末は「4年に一度」の大会でもあった。オリンピック代表選考の最終対象大会であったからだ。シニアデビューシーズンの高浪と西山は、選考の対象となる位置にはいなかった。ただ、周囲には代表を目指す選手たちがいる。その緊張が伝染する例は過去にあった。しかも開催されたのはさいたまスーパーアリーナ。フィギュアスケートの大会が行われる会場としては屈指の大きさと観客席数を誇り、大会中は多くの観客が見守った。
でも2人は、伸びやかな演技を披露してみせた。緊張はあったと西山は言う。それでも打ち破った。
「自分たちは代表の選考にない立場の選手なので、そのあたりのプレッシャーはありませんでした。それでもさいたまスーパーアリーナという大きな会場で、今シーズン初めてたくさんのお客さんの前で滑ることは緊張するだろうと想像していて、実際、思った通り緊張しました。でもこのような舞台で滑れる機会もスケート人生で限られた回数しかないのかなと思い、逆に緊張する雰囲気を思い切り体感したいと思えたのがよかったと思います」
そして言葉を続ける。
「自分たちは小松原組(優勝し北京大会の代表に選ばれた小松原美里・尊)と同じ更衣室でしたが、尊さんが僕達にプレッシャー与えないように配慮してくれていたような気がします。尊さんに感謝したいです」
高浪はこう語った。
「出場した方々はスポーツマンシップがあって公式練習でも『お疲れ様』『おはよう』と言ってくださいました。それにアイスダンスだからパートナーがいて、氷に乗る前に話す機会もありますし、だからプレッシャーにのまれずできたのかなと思います」
小松原尊の話も含め、代表1枠をめぐり2組がしのぎを削った中での、アイスダンスの空気がそこにうかがえた。