前回前々回でも書いたように、イノベーションの物語の最初はいつだって反対に遭うものである。明確な反対に遭わないまでも、賛同者は少ないものだ。そのため、イノベーションの進行プロセスは、仲間を増やしていく旅路、協力者・賛同者を増やしていく過程だといえる。賛同者が少ない最初の段階では、社内(時に社外)に味方・仲間をつくっていくことが社内イノベーター(イノベーションの推進者)の仕事になる。

 では、社内イノベーターは、どのような手段で仲間(賛同者)を増やしていくことができるのだろうか。ある程度"筋のいい企画"であることが前提だが、その企画を説明していくことしか事実上、手段はない。手段は、"口(くち)"と"資料"のみである。いかにその画期的な企画の素晴らしさを理解してもらうかに精進しなくてはならない。

インベンションとイノベーションは違う

 ときどき見掛ける良くない例は、イノベーションの説明でなくインベンション(発明)的な説明をしていることである。インベンション(発明)とは、ある問題を新しい技術的な方法で解決することで、その"すごさ"を伝えるためには、新たな機能性、性能の高さ、コストの安さなどを語ることになる。技術のすごさの説明としてはそれでよいが、イノベーション企画の説明としては物足りない。

 イノベーションは、その定義からして経済的効果あるいは社会変化をもたらすもので、インベンションと同義ではない。むしろ、インベンションとイノベーションは概念的には独立しているもので、すごいインベンションでもすごいイノベーション(経済効果、社会変化)になっていないものは多々ある。

 企画の説明の原則は、技術のすごさを語るのではなく、"価値"、つまり顧客の得る価値、社会にもたらす価値を、律して丁寧に語るということである。その原則を意識していれば、本来の道から外れることはないはずだが、意外と原則から外れている人も見掛ける。