谷垣健治アクション監督がハリウッド進出
そんな、これまでの設定を無視したシリーズ新作、スピンオフ的作品の目玉は何と言ってもアクションに尽きる。
そもそも前2作も莫大な予算をかけた、前代未聞のアクション大作だった。第1作は1億7500万円かけて、全米1億5020万円、世界3億247万円の興行収入を挙げ、第2作は1億3000万円かけて1億2252万円、世界3億7574万円。ヒットはしたが、予算がかかりすぎているだけに、興行的には決して成功作とはいいがたい。
だが、アクションシーンは素晴らしかった。特に第2弾『バック2リベンジ』の雪山を舞台にロープを使って移動しながら戦う空中アクションは衝撃的だった。今なお鮮明に記憶に残っている。ドウェイン・ジョンソンの重量級ガン・アクションも、今はいろんな作品で目にはするが、当時は目新しくテンションが上がった。
そして本作。予算は8800万円と第1作の半分に減ってはいるが、それ以上の迫力あるアクションがこれでもかというくらい詰め込まれている。中心となるソード・アクションはもちろんだが、カー・アクションに組み込まれた殺陣は白眉。さらにガン・アクションも同時進行で魅せる。そのスピード感、フォームの美しさと激しさ。素晴らしすぎる。
その立役者は何と言っても『るろうに剣心』シリーズで名を挙げたアクション監督、谷垣健治氏だろう。谷垣氏は90年代に単身で香港に渡り、スタントマンとして活躍。早くからドニー・イェンの信頼を獲得し、多くの現場でスタントだけでなく、アクション監督兼俳優のドニーの補佐役を務めてきた。そして21年正月に公開されたドニー主演作『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』では、監督を手掛けている。今やドニーから「誇りに思う」とまで言わしめる、アクション映画界のレジェンドだ。
その14年前の2006年には谷垣氏の恩師、倉田保昭氏と、8月に急逝した千葉真一氏の初共演を実現させた『マスター・オブ・サンダー 決戦!!封魔龍虎伝』を監督。先日、千葉真一氏追悼特集での取材で、倉田氏は「谷垣を初めて監督に育てようと考えた時、相手は千葉さんもしくは、台湾のジミー・ウォングさんと決めていた」と語っていた。
とにかくスピーディで、流れるように美しいソード・アクションの素晴らしさは『るろうに剣心』でも実証済み。谷垣氏の現場を見学したことがあるが、その集中力は半端ではない。しかも出演者がその熱量に感化され、自主練を徹底していく。結果、『るろうに剣心』は日本の時代劇、アクション映画全般の底上げに大きく貢献。『るろうに剣心』以前以後と分けられるほどの革命となった。
キャスト陣の健闘にも圧倒
今回も恐らくそうだろう。前2作のレイ・パークから若き日のスネークアイズ役を引き継いだヘンリー・ゴルディングはインタビューで、谷垣氏のアクション指導を称賛していた。アジアン・テイストがふんだんに盛り込まれたアクションは、やっぱり前2作と比べても細やかさが違う。かつ大胆不敵。
さらに2011年公開のインドネシア映画『ザ・レイド』に主演、東南アジアの伝統武術シラットを駆使した驚愕アクションで世界を震撼させたイコ・ウワイスも嵐影のハードマスターとして参戦。欲を言えば、彼のアクションをもっと見せてほしかった。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でハリウッド進出を果たしてはいるが、この出演もほんのわずか。もったいない。
ほか、ストームシャドーの若き日を演じ、華麗な二刀流の殺陣を見せたアンドリュー・小路。ロンドンに拠点を置いて活動する日本人女優・安部春香が演じる、くのいち曉子は他二人の白人女優をはるかにしのぐ、嬉しい発見だった。また、嵐影一門を壊滅させようと画策、コブラと手を組む鷹村演じる平岳大は、初の本格アクションだったとは思えない圧倒的な存在感を放っていた。
何より驚いたのは嵐影の頭領を務めたセンを演じた石田えり。『遠雷』での大胆シーンをはじめ、ヘア・ヌード写真集や40代半ばにしてのストリップ披露と、その都度、毎回驚かされてきたが、彼女のアクションがここにきて見られるなんて!! 様になっているのはさすがだった。
そして、早くも『G.I.ジョー』シリーズの続編が開発中とのアナウンスも。しかも本作からの新たな展開になっているようで、期待が高まる。スネークアイズは本作に引き続き、ヘンリー・ゴルディングが続投するとも報じられている。
これまでの設定は、師匠の死によって誓いを立て、言葉を発しなくなったことになっているが、ゴルディングのスネークアイズにはどんな運命が待っているのか。そして谷垣氏にはぜひまたアクション監督を務めてもらい、ハリウッドに新風を巻き起こしてもらいたい。