ダブルフェイスの総手縫いという、超オーバースペック

 でも2020年の秋、〝ブリオーニ〟が創業75周年を記念してつくったジャケット『レッジェーラ』を見て、そんな固定概念は見事に覆された。要するにめちゃくちゃ着たいのである! 

 生地はなんと、カシミアシルクを混紡した極薄生地2枚を手作業で「接結」して1枚にした、ダブルフェイス。生地自体が極薄であるのはもちろん、当然芯地やパッドなどは一切使っていないから、着心地はとんでもなく軽い。しかも、普通こういったジャケットはコストダウンのため縫製を簡略化することが多いのだが、こちらの場合はほぼ手縫い!

2枚の生地を手かがりで1枚にした、「ダブルフェイス」生地。英語だと簡単そうだが、日本の職人の間ではこの技術は「毛抜き合わせ」と呼ばれている。極めて高い技術を必要とするため、こういった生地をつくれる工場は世界でもわずかだ

  普段の〝ブリオーニ〟なら生地のエッジギリギリにしか入れない「コバステッチ」を、ちょっと目立つ位置に入れるなど、よりオーバースペックというか嗜好性をアピールしているようだ。そのステッチ数はなんと6000針! ジャンルとしてはアンコンジャケットなのだが、あまりに巷のそれとはクオリティが段違いすぎて、同列に語るのには躊躇してしまう。

襟やポケットまわりのエッジを落ち着かせるのと同時に、装飾的な意味合いを持つ、「星ステッチ」と呼ばれる縫製。高級サルトリアはここを手縫いで仕上げて上質感をアピールすることが多いが、〝ブリオーニ〟のそれは、ひと粒ひと粒が異常に美しい

 こんなカジュアルなジャケットなら、僕のような華やかな場所には縁のない服オタクでも、普段の装いに取り入れられそうだ。リモートワークが中心となった昨今のビジネスシーンにもマッチしているから、もちろんエグゼクティブの方々にもおすすめしたい。

 僕だったら〝マーガレット・ハウエル〟のバンドカラーシャツに、ボロボロのヴィンテージジーンズ、〝オールデン〟のローファーといった着こなしかな。とてつもない手間暇をかけた一着だけあって、お値段こそカジュアルというわけにはいかないが、ぜひとも〝ブリオーニ〟の真価を気軽に楽しんでみてほしい。