JBpress autographの編集陣がそれぞれの得意分野でお薦めを紹介する連載「RECOMMENDED」。第9回はライターの山下英介さんがライカの「ライカM10-R」を紹介します。

スタイリスト=櫻井賢之 撮影=唐澤光也(RED POINT) 文=山下英介(初出:2020年12月4日)

誕生以来数多のフォトグラファーを虜にしてきたM型ライカは、そのプロダクトとしての魅力ゆえに、歴代のウェルドレッサーにも支持されてきた。デジタル化以降はその傾向はより顕著に。クラシック、ストリート、モード、ヴィンテージなど、多彩なジャンルのセレブリティやファッショニスタが愛用している。写真はその最新モデル『ライカM10-R』と、超人気のレンズ『ズミルックスM f1.4/50mm』である

〝ライカ〟以前、〝ライカ〟以降。

 2015年4月以降、僕の人生は劇的に変わった。「写真」という一生付き合える趣味が見つかったこと。そして少々口幅ったいのだが、「写真が撮れる」エディターになったことである。それもこれも、すべて〝ライカ〟との出会いがきっかけである。

 いわゆるM型ライカと出会った日のことは、今でも忘れられない。仕事上必要に迫られて、高級コンパクトデジタルカメラ『ライカX (Type113)』を購入したその日、ついでに見せてもらった『ライカM (Type240)』。自分には縁のない存在と思っていた、この超高級機種を手に取った瞬間、僕の心臓が高鳴った。〝パテックフィリップ〟の『カラトラバ』や、〝ジョンロブ〟の靴に匹敵する、物体としてのオーラ。心に静かに訴えかけるような、「コトン」というシャッター音。しかも何の気なしに店内でシャッターを押しただけなのに、驚くほど情感豊かな写真が撮れるのだ。

「これは今まで使ってきたカメラと全く違う・・・!」

 かくして『ライカX』を購入して数ヶ月後、早くも僕の手元にはもう一台の〝ライカ〟、『ライカM (Type240)』が加わった。

こちらが筆者の所有する『ライカM-P (Type240)』と、オールドレンズの銘玉と言われる『ズミクロン35㎜』の通称〝8枚玉〟。使い込んで真鍮の地金が露出した様子は、あたかもヴィンテージジーンズの色落ちを彷彿させる。この2つのカルチャーにはたくさんの共通点があるため、ヴィンテージ愛好家のライカファンは非常に多い

〝ライカ〟のある生活。

 このカメラを買って以降、本当に色々な旅をしたし、その先々でたくさんの友人ができた。ついでにちょっとだけ撮影料も稼がせてもらった(笑)。特に海外のファクトリー取材には重宝したものだ。まあ、稼ぎのほとんどは新しいレンズ代に費やしてしまったが・・・。

M型ライカを買ってわずか4ヶ月後、2015年冬に旅したベネチアでの写真。テクニカルなことはわからないが、〝ライカ〟のセンサーとレンズは、その場所の空気感や情感をそのまま伝えてくれるのだ

 幼稚園児にカメラの絵を書かせたら、きっとこの形になるだろう、と思えるほどプリミティブな〝ライカ〟のデザインは、撮られる人を緊張させないようだ。だからなのか、このカメラを構えているときの僕は、いつもよりも積極的。そんな人との距離感や空気感が、写真にも現れているような気がする。もちろん、ライカレンズが誇る圧倒的な性能によるところが多いのだが。 

ドイツ中部のウェツラーにある、〝ライカ〟の本社兼ファクトリー。こちらは近年ミュージアムやショップ、ホテルなども設けた複合施設「ライツパーク」へと進化した

 気がついたら、僕の〝ライカ〟のボディにはたくさんの傷が刻まれてしまったが、まるでジーンズの味出しのような感覚で、個人的にはとても気に入っている。ちなみに現在使っている『ライカM-P (Type240)』は、2014年に発表されたモデル。デジタルとはいえ数年で陳腐化することはなく、じっくりと付き合っていける点が、〝ライカ〟の魅力なのだろう。